大きなスギの木がギシギシと倒れ、地面を揺らす音が腹に響きます。ここは栗駒木材が持つ『エコラの森』。いま倒れたのは天然住宅に用いる木材で、伐り倒したのはその家の建て主さんです。栗駒木材の人たちは木を選び、現場を整地し、伐り倒す前には木の神さまに祈ります。家族連れで参加する建て主さんは、現場の人に支えられながらチェーンソーを使い、最後に楔を打ち込み、倒します。小さな男の子が、真剣に伐り倒しているお父さんの姿を見て、「お父さん、かっこいい」とつぶやきました。お父さんにとって、子どもから初めて言われた言葉だそうです。
一般社団法人「天然住宅」は営利の会社ではありません。「森を守って、健康・長持ち」を実現するための非営利の会社です。だからこそできることもあります。ふつう、木を売る林業者と買い取る木材会社は利害が対立します。互いに豊かではないので、相手に損させなければ自分の利益が得られないのです。工務店と木材会社だって対立します。だから互いに相手の事情は知らないし、木を育て、製材する過程の誠意も真心も知らないのです。
でも非営利で、しかも育林から製材・建て方までを一貫して進める天然住宅では、それぞれの部分を切り離して委託したりしません。育林から建築までの全体を、営利目的でなく進めているのです。
木を育てている栗駒木材は株式会社ですから形式上は営利ですが、かつて多くの会社がそうであったように、社会的な役割のために働いています。もちろん取り分をめぐって言い争うことだってありますし、美しい話ばかりではありませんが、それでも木に込めた愛情はみな同じです。私たちは誠意や真心のチェーンの先にある住宅を届けたいのです。建物ではなく、それが建てられるまでのものがたりを届けたいのです。
栗駒木材では、誰に気づかれなくても除草剤を使わずに育て、気分が落ち込むほど大変な草刈りをし、世代を超えて間伐を続けてきました。それが数十年の時を経て、今やっと建て主の元に届くのです。長い生命を断ち切る伐採、カビが生えないようにすぐさま製材して乾燥させる努力。すべては建て主に喜んでもらうために続けられてきたことでした。
私たちが届けるのは無人の工場で作られる工業製品ではありません。その昔、中学に入学するときに親が買ってくれた万年筆のようなものです。高い安いではなく、世界にひとつだけの思いが込められたものがたりなのです。
完成見学会をしたとき、ある施主さんはこう言ってくれました。
「建てるときには予算と設計との関係で、さまざまな問題がありました。でも天然住宅の人たちの提案は、後ろ向きの妥協がひとつもなかった。この家を建ててよかった」と。
またある建て主は、「快適でゆったりしすぎて仕事の能率が落ちた」と笑っていました。
私たち天然住宅の見学会は有料です。ふつう見学会の経費は、住宅販売の営業経費などに含めるので無料で行いますが、天然住宅は営業経費を抑えるために見学会開催に必要な最低限の経費だけいただいています。加えて実際に天然住宅を建てて生活している個人のお宅におじゃまするので、半額は見学会を受け入れてくれたお宅にお返ししています。見てもらうなら、モデルハウスよりも住み心地を住んでいる人に聞いてもらったほうが有益でしょう。
「もっと見学会をしてくれないか、ローン支払いの助けになるから」と言ってくれるお客さんもいますし、天然住宅バンクへの出資金に回してくれる人もいます(天然住宅バンクについては、次回で詳しくご説明します)。
これは新たな社会のつながり方ではないかと思います。カネ儲けではないつながり方が、気持ちよいコミュニティーを作るのかもしれません。
このレポートを読んで木を切る前に「木の神様」にお祈りして、その後で木を切るなんて感動しました。これからも頑張ってください!応援しています。
(2011.02.24)
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