熊野古道の名所「大門坂」は、熊野那智大社や那智の滝に至る杉並木に囲まれた古道だ。長さ6丁(約600m)、鎌倉時代から残る石畳の階段で、かつては登り切ったところに仁王像を安置する大きな楼門(大門)があった。その大門までの坂道ということから「大門坂」と名づけられた。この楼門は現在、西国三十三箇所第一番札所になっている「那智山・青岸渡寺」の下に再建されている。
今回は、世界遺産「熊野古道」ショートツアーへの誌上体験に、ご案内したい。
朝の9時、ツアーデスクに集合。老若男女、誰でも参加できる。参加者は、世界遺産「熊野古道」に踏み入る期待と緊張に、ソワソワした様子だ。
「熊野古道を歩く」。文字にするのは簡単だが、熊野古道は京都から熊野へ至る参詣道の総称だ。元来は信仰の道であり、ルートも様々、険しい難所もたくさんある。古の時代には、身を清めて熊野の神々を思いながら、人影少ない山道を何日もかけて歩き通す、祈りの道だった。
かねてより、自然に囲まれたリゾートホテルという立地条件を生かした体験プログラムを模索していた休暇村南紀勝浦では、熊野古道の最大の名所のひとつで、休暇村からのアクセスもよい「大門坂」を歩くショートツアーを企画した。時は2003年10月、世界遺産への登録が決まる半年ほど前のことだ。
大門坂に向かうとまず目に飛び込んでくるのが、高さ55m、樹齢800年を数える大杉だ。対になっていることから「夫婦杉」と呼ばれている。この夫婦杉をくぐると杉木立に囲まれた石畳が姿を現し、一歩足を踏み入れると冷たく澄んだ空気が肌をつつむ。信仰を集める霊場を体で感じられる瞬間である。
6丁ある大門坂の2丁を少し越えた所に、樹齢を重ねた杉並木と連なる石段を望むフォトジェニックなポイントがある。上から大門坂を下ってくる人には、つい「振り返ると素敵な石畳が並んでいますよ」と声をかけてしまう。それほど皆に見ていただきたい風景だ。
ここだけでなく、熊野古道には振り返るとガラッと雰囲気が変わる場所が多々ある。目的地へと一目散に歩いて達成感を得るのもよいが、目線を変え、いろいろな物を見ることに自然の中を歩く楽しみがあると思う。
5丁手前に「那智の滝」が見えるポイントがある。下から登ってくると20?25分くらい。ちょうどよい休憩ポイントだ。
近づいて見た方が迫力満点なこの滝も、自分自身で歩を踏みしめたどり着いた場所から遠く眺めるのも、また感慨深い。
乱れた呼吸を整えながら、「昔の人々もこうやって足を休めたのかな?」と悠久の思いにふける。
登ってきた達成感と少しの疲労感を感じながら、ツアー参加者に「石段の数を数えた人はいますか?」と問うと笑いが湧き上がる。楼門跡の案内板に「段数は267段」と明記してあるが、こうやって参加者と会話をすることで楽しみながら歩けるというのが私の持論である。
厳しい修行を行う聖地、熊野三山。平安時代に阿弥陀信仰が盛んになると、熊野詣が人々の間で広まっていった。
参拝者が通る道を「熊野古道」と呼ぶ。京の都から淀川を舟で下り、大阪の窪津王子(今の大阪府大阪市中央区天満橋付近で、熊野九十九王子の1番目に当たる)から陸路をとり、紀伊路・大辺路・中辺路と歩いて「熊野本宮大社」、そこから熊野川を舟で下り「熊野速玉大社」、そして「熊野那智大社」へと参拝し往復する、約1ヶ月の行程が主なルートだ。
本宮・速玉・那智の熊野三山はそれぞれ現在・過去・未来を現すと云われ、巡礼者は我が身を清め、新しい自分に生まれ変わるため、現世および来世への祈願を求めたのである。その後、全国各地からたくさんの参拝者が訪れた様子を蟻の行列に喩え、「蟻の熊野詣」と呼ばれたこともあった。
(休暇村 南紀勝浦 営業スタッフ 湯浅 友宏)
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