みなさんは食品ロスという言葉を聞いた事がありますか? 農林水産省のホームページでは“「食品ロス」とは、食べられるのに捨てられてしまう食品を言います。食品ロスを削減して、食品廃棄物の発生を減らしていく事が重要です”と説明されています。この説明通りに理解すると、大カテゴリーとして食品廃棄物があり、その中にまだ食べられるのに捨てられる“食品ロス”という小カテゴリーがあることになります。
近年、当団体の活動は「食品ロスを減らすのに有効な取り組み」として紹介され、取材や講演の依頼を受けることが多々あります。当団体は食品ロスに関する国際会議などに招待される事もありますが、海外でこの問題が議論される際には、“食品のロスと廃棄物(Food loss and waste)”は必ずセットで表現されます。
ロス(Loss)という英語を英和辞書で引くと「損失」や「減損」という言葉が出てきます。天候や害虫などの影響によって本来食用として見込めた量や質が減損してしまった食品は「食品ロス」として議論されています。国際会議の場における食品ロスの議論の多くはインフラの整備などに占められます。
私たちがフードバンクについて国際会議の場で発言を求められる場合、多くは食品の“ロス”ではなく“廃棄物”の削減が議題になります。すでに食用としてフードサプライチェーンの中で流通しているもののうち破棄されるものが「食品廃棄物」と呼ばるため、私たちの活動はロスより廃棄物削減の議論に組み込まれるのです。
興味深いのは、食品廃棄物が本来食用として見込めた量の減損として食品ロスの一部であるとして、国際的には認識されることです。つまり日本とは逆に、食品ロスという大カテゴリーがあり、その中に食品廃棄物という小カテゴリーがある事になります。
フードバンクなどによって破棄されずに活用される食品のことを“レスキューされた食品(Rescued Food)”と呼ぶ事があります。食品が廃棄される前にレスキューされるというのは、食品ロスの削減とどのような関係があるのでしょうか。
フードバンクの取り組みは、食料廃棄物の肥料化や飼料化と同様に、食料廃棄物の再使用(Reuse)や再生利用(Recycle)であるという認識が世間には根強く残っています。しかし、今年に入って国際機関が発表した世界初の食品ロスの定義と測定方法の国際基準“Food loss and waste Accounting and Reporting Standard”によると、フードバンク等によってレスキューされた食品はフードサプライチェーンの中でおきている事であり、ロスや廃棄とカウントされるものではないと説明されています。
つまり、再使用(Reuse)や再生利用(Recycle)によってロスや廃棄を削減する取り組みではなく、そもそもロスや廃棄を出さない発生抑制の取り組みということです。
日本でも、「食品廃棄物等の発生抑制と再生利用の推進」の中で、最も取り組みの優先順位が高いのが、食品廃棄物の“発生抑制(Reduce)”です。農林水産省の報告にもある通り、フードバンクの食品取扱量は事業系食品ロスの0.1%程度ですが、これは0.1%を再利用したという事ではなく、0.1%に相当する量の食品ロスの発生を抑制しているという意味合いになります。
食品ロスの問題は、ロスと廃棄の違いからも見えるようにとても複雑です。食品ロスをただ「もったいない食品」と定義することで、問題が分かりやすく社会に広がりますが、問題の解決方法を探るには、その複雑さを正しく理解し、多様なアプローチ方法を考える必要があります。
私たちは、食品ロス削減においてフードバンクの活動では非常に限定的な役割しか果たせないと考えています。しかし一方で、破棄される運命にある食品を最も有効に、社会的に価値のあるものとして使うことができるとも思っています。
次回は、なぜ私たちがもったいない食品を有効に使えるのか、そして使わせていただく必要があるのかを解説していきたいと思います。
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