実に4年ぶりの映画紹介コーナーとなりました。ご紹介するのは、8月30日に全国公開される『リトル・フォレスト夏・秋』です。
一度は都会に出たものの、自分の居場所を見つけることができず、東北の山間の小さな村落・小森に帰ってきた“いち子”の生活を、「食べる」を通じて綴ったこの作品。フィクションなのにドキュメンタリーのような、不思議な魅力の映画です。
原作となった漫画の作者は、『海獣の子供』や『魔女』などの作品で知られる五十嵐大介さん。現実と超現実の間を行き来する世界、そして自然や生命の見えざる力を描く五十嵐さんですが、『リトル・フォレスト』では、自身も実際に暮らしたことがある東北の農村での日常を、1st dish、2nd dish...と毎日の食事を通して美味しそうに描いています。
映画は4部構成で、『夏・秋』『冬・春』がそれぞれ公開予定。さきがけて封切られる『夏・秋』を観てきました。
映画は、原作と同じように旬の食材を使った料理やお菓子が一皿ごとに紹介されています。撮影場所は岩手県のとある集落。オール岩手ロケで1年をかけ、実際の季節の変化や作物、山の実りに合わせて撮影されただけあって、映っているもの、空気感がとてもリアル。こんなにもリアルを追求しているのに、CGがほんの一瞬使われていて、それがまた実写のイメージをふくらませています。
丁寧に季節を追いながら撮影された映像は登場人物の息づかいが聞こえてくるよう。まるで自分が“いち子”と一緒に小森の村での暮らしを体験しているような気持ちになります。田んぼの草取り。取っても取ってもすぐに生えてくる雑草。ニンジンの間引き。栽培された作物だけでなく、クルミやミズ、栗など家のまわりを囲む沢や森から採れる山の幸もごちそう。個人的にも大好きな山のフルーツ、桑の実やグミ、アケビなど、都会では手に入らない採れたてだからこその旬の味覚は、このうえない贅沢ではないでしょうか。主演の橋本愛さんは、実際に農作業や料理はもちろん、合鴨をさばく作業までを自身で行ったとのこと!!
『リトル・フォレスト』はフィクションですが、エコレポ第3回で紹介したドキュメンタリー映画『水になった村』に出てくる人々の暮らしとかなりリンクするものがありました。どちらの映画の登場人物も「生きるために食べる。食べるためにつくる。」という人の営みの根源的なところが一緒なのです。
もうひとつのオススメポイントは集落の景色。
「長雨の晴れ間に峠から見おろすと、小森は水蒸気に沈んで見える」
なんていう、詩的な表現がぴったりはまる。
2Dの平面映像なのに、ほんとうに盆地の村が水蒸気の重さを背負っているかのように感じられます。そして、そんな湿気のある気候だからこその緑のグラデーション。
さらに、“いち子”の家を訪れるさまざまな訪問者、カブトムシ、サワガニ、フクロウ、クマ…映像の隅から隅まで生命にあふれたこの映画を、一言で言うと何かなぁと、考えていて思い浮かんだのは、「美味しくて、にぎやか」。それってつまり、エコレポ的に言うと「生物多様性」なのでは!?と、思います
『リトル・フォレスト』は、「夏・秋」が8月30日から、「冬・春」は2015年2月14日からロードショー。“いち子”をとりまく人間模様も映画のもうひとつの軸になっていますので、お見逃しなく。
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