地図の上にある島や街がなくなってしまったら、それはいつまで、人々の脳裏に記憶として残るのでしょう。
今なら、ビデオや写真をデータにして残すということも考えられるけれど、やはり、現実に目の前に存在しなければ、記憶が“歴史”になるのにそれほど時間はかからないのではないでしょうか。
『The Age of Stupid(2009)』は、映像で残された地球の記憶を回想するという設定の映画です。時は2055年の地球。荒廃した地球上のどこかに築かれた、宇宙基地のような形のビルの中で、人類最後の男が、アーカイブされた過去の地球の映像(実際のニュース映像など)をタッチパネルで呼び出し、振り返っていきます。
2055年に残される人類はひとり!? 描かれている未来はあくまでもフィクションだし、多少強引な未来像ではあるのだけど、いつか本当にそんな時代がくるかもしれない、と思わせる内容です。
『The Age of Stupid』は、「ものがたり」ですが、7月10日から上映がスタートする『ビューティフル アイランズ(2010)』は、「現実」のお話です。
「ツバル」という国の名前を聞いたことがあるでしょううか? 品川区と同じくらいの面積に約1万人が暮らす、南太平洋に浮かぶ小さな島国です。
10年ほど前、インターネットのツバル国ドメイン「.tv」の使用権を売却。その利益で国連加盟を果たし、国際的な注目を集めた国でもあります。
その後、世界で一番海抜が低いことから「気候変動の影響で、世界で最初に沈むと言われている島」という代名詞がつきました。それゆえに、報じられるツバルはいつでも、北極のシロクマと同じく、気候変動/温暖化の被害者としての側面ばかり。
映画は、そんなツバルがスタート地点です。そして、イタリアの海上都市ベネチア、アラスカ最西端のシシマレフ島へと、私たちを世界旅行に連れて行ってくれます。
3つの島に共通するのは、海面上昇や高潮の影響が日常となっているということ。“海に沈む”ことが、「ものがたり」ではなく「現実」に迫っていること。でも、そこに映し出されるのは、逃げ惑う人々の姿ではなく、淡々とした日常、彼ら独特の文化なのです。
(誤解を恐れずに言うと)気候変動とか温暖化とかいう小難しい話ではなく、「失われゆく“たからもの”」の物語なのです。
圧巻なのは、ツバルの人たちが、村の集会場(?)で歌い踊り明かすシーン。
「うわっ、これが無くなってしまうなんて、もったいない!」と、思わずにはいられませんでした。
“たからもの”の話をして思い出したのは『水になった村(2007)』というドキュメンタリーです。
舞台は日本。岐阜県の徳山村です。ダム計画で村人はいったん村を離れるのですが、「村が沈んでしまうまで、できる限り暮らし続けたい」と何人かのジジババ達が街から戻って暮らしていました。
ダムに沈む村をカメラに収めようとやってきた写真家・大西暢夫さんは、そこに人がまだ住んでいることに驚き、以来何度も、村に通うことになるのです。
大西さんが記録したジジババの生活は、生命力あふれる人智そのもの。
これが記録から記憶へ、そして歴史になる日がそう遠くないことを私たちは感じつつ、それでもやっぱり残したい!と模索する日々を過ごしているのだなぁと思います。
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