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「ようこそ、外来種問題の世界へ」バックナンバー

0122017.01.10UP「防除の順番」が重要 ~小笠原ではノブタに先駆けてウシガエルを除くべし-ケーススタディ:小笠原諸島のウシガエル-

【図01】小笠原諸島の位置図
【図01】小笠原諸島の位置図

 小笠原諸島には多くの固有種が生息・生育しており、いくつもの生きものにおいて進化の過程が見られることから、世界自然遺産に登録されています。その一方で、多くの外来種が定着して生態系に被害をもたらしており、それに対してさまざまな対策が取られています。
 今回は、2009年に根絶が宣言された「ウシガエル対策」について取り上げ、生きもの同士の種間関係の中で、種ごとの防除の順番を検討した過程をお示しします。

食用として世界中に導入

 ウシガエル(Lithobates catesbeianus)は食用ガエルともいわれ、もともと生息している地域はアメリカ合衆国東部からカナダ東部にかけての一帯です。よく発達したもも肉を食用とするために、世界各地の温帯域から熱帯域に持ち込まれており、世界的に見てもっとも広く導入されたカエルとなっています。
 日本へは1918年、アメリカ合衆国のニューオーリンズ州から初めて導入され、その後も、水産資源として原産地や国内からの導入がくり返されました。第二次大戦をはさんで、国策として養殖と放逐が推奨され、滋賀県や茨城県で養殖された本種のオタマジャクシや子ガエルが全国に無償配布されていました。かつてウシガエル肉は主要な輸出品目となっており、1969年には過去最高の輸出量967トン、輸出額7億5000万円との報告がなされています。しかし、輸出された肉から農薬が検出されて以降、輸出は急減し、現在ではほぼ皆無となっています。
 ウシガエルはアメリカ合衆国で最大のカエルであり、日本で見られる40種ほどのカエルの中でも最大です(図02)。水生傾向が強く、湖沼やため池などの止水域や、流れの緩い河川下流域などに生息します。ただし陸上を移動する能力も高く、分散距離は3.2kmに及ぶとの報告もあります。繁殖期は初夏から初秋にかけてで、この時期、オスは水面に浮かんで「ブォー、ブォー、…」とウシのような声で鳴き、それが和名及び英名(ブルフロッグ)の由来になっています。
 産卵は水草の多い水域でなされ、産み出された卵は水面に一層に広がって卵塊を形成します(図03)。繁殖力は旺盛で、1.2~1.7mmとごく小さな卵が6,000~40,000個も産み落とされます。卵塊は座布団ほどもの大きさになりますが、じきに沈んで水草などに引っかかり、目立たなくなります。孵化したオタマジャクシはその年の秋、または越冬して翌年の初夏までに全長15cmもの大きさに成長します。四肢が出てカエルの姿になってからは、昆虫やアメリカザリガニ、他のカエルや魚類、時には小鳥やネズミさえも襲って食べます。
 生態系に深刻な被害をもたらすことから、2006年、外来生物法により特定外来生物に指定されています。また、「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」には重点防除外来種として掲載されています。

【図02】ウシガエルの成体(小笠原諸島弟島にて撮影)
【図02】ウシガエルの成体(小笠原諸島弟島にて撮影)
【図03】ウシガエルの卵塊(小笠原諸島弟島にて撮影)
【図03】ウシガエルの卵塊(小笠原諸島弟島にて撮影)

小笠原の生態系:食うものと食われるものとの関係

【図04】小笠原諸島(父島)における主な生きものの種間関係 (大河内(2009)をもとに作成)
【図04】小笠原諸島(父島)における主な生きものの種間関係 (大河内(2009)をもとに作成)

 小笠原諸島は東京からおよそ1,000km南方に位置し、大小30ほどの島々からなります。もっとも大きい父島でも島の面積は約24km2で、これは東京都品川区や沖縄県伊江島の面積とほぼ同程度であり、小笠原諸島は「ケーススタディ:マングース」で紹介した奄美琉球列島に比べるとはるかに小面積です。有人島は父島、母島などに限定され、およそ2,500人が住んでいます。
 地史的にみると、小笠原諸島は成立してから大陸と一度もつながったことのない「海洋島」であり、ここに見られる在来の動植物は、全て広大な海を越えてたどり着いたものの子孫です。鳥やコウモリなどは飛んで、カタツムリや植物などは流木に付着したり、種子が流されたりしてたどり着いたと考えられています。たまたまたどり着いて定着した少数の生きものは、小笠原諸島の環境に適応して固有種へと進化してきました。たとえば陸に住む爬虫類・両生類を見ると、在来種はオガサワラトカゲなど2、3種のみで、ヘビや淡水産のカメ、カエルやサンショウウオなどの両生類はもともと全くいませんでした。このように、小笠原諸島では生態系を構成する種の数が少なく、食う・食われるの関係が単純であるという特徴が見られます。
 ところが、19世紀にヒトが入植してからはさまざまな動植物が持ち込まれ、現在ではこれらの外来種がその種類も数も増やしています。小笠原でよく目にするモクマオウ、アカギ、ギンネムなどの樹木や、クマネズミ、オオヒキガエルなどの動物はヒトによってもたらされ、増殖して在来の捕食や競争によって在来の動植物を脅かしてきました。在来種が少なく、多くの外来種が侵入している小笠原の生態系においては、食う・食われるなどの種間関係に外来種が深く複雑に入り込んでおり、「外来種に依存した外来種」や「外来種によって増殖が抑制されている外来種」も多くなっています(図04)。このような場合、ある外来種を取り除くと別の外来種が増えて新たな被害を及ぼすといったケースがしばしば見られ、外来種防除の効果と影響を考慮しつつ「防除対象種の順番」を決めることが必要となります。

弟島におけるウシガエル対策

 弟島は父島列島に属し、面積5.2km2、最高標高235mの無人島で、島の広い範囲が高木林に覆われています。狭い島ながら水系が発達し、父島などに比べると外来樹の侵入が少なく、また侵略的外来種であるグリーンアノールが未侵入であることから、在来昆虫がよく残存しています。特に、小笠原諸島固有のトンボ類5種すべてが揃って生息している唯一の島であることは特筆されます。しかし、弟島には外来種であるウシガエルが定着しており、トンボ類の保全のために、その排除が望まれていました。
 かつてウシガエルは食用として各地に放され、一時は父島などにもいましたが、2004年の時点で、小笠原では弟島のみに見られました。比較的乾燥した小笠原の中でも、湿潤で、食物も多い環境であったことが、ウシガエルの存続を可能にしたのでしょう。現地調査などによって島内の分布域を調べたところ、同島北部のごく狭い水域のみに生息していることが分かりました。環境省は、自然環境研究センターや神奈川県立生命の星・地球博物館の苅部治紀さんらとの協同で、このウシガエルの根絶を目指しました。
 弟島にはウシガエルを捕食する淡水魚やヘビ、イタチなどは生息せず、カエルを好む猛禽やサギも少ないと推測されます。ところが、弟島のウシガエルはとても警戒心が強く、人影を見るとすぐに潜水して隠れてしまいます。また、水辺では食いちぎられたウシガエルの死体が確認されており、ウシガエルが何者かにしばしば襲われているために警戒心が強くなっていることが推測されました。そして、ウシガエルを襲っている生きものも外来種だったのです。
 当時、弟島には外来種であるノブタが生息しており、弟島の種間関係の中で、ノブタはウシガエルの主要な捕食者であろうと考えられました。ノブタは弟島で昆虫や甲殻類、さまざまな植物を食べており、ウシガエルと並んで排除すべき外来種の1つですが、もしもウシガエルよりも先にノブタを排除してしまうと、天敵が不在になったウシガエルが急速に増えてしまうのではないか、という懸念がありました。そのため、「ノブタに先駆けてウシガエルを除くべし」との方針を立てて、まずはウシガエルの根絶を急ぐことにしました。

人がいない間にも捕獲圧を掛け続けられる作戦

 無人島である弟島には、父島からチャーター船で数十分をかけて行く必要があります。人工の桟橋はなく、上陸地点はごつごつした自然の岩礁で、海が少し荒れるとたどり着けなくなってしまうため、頻繁に上陸して作業をすることは困難でした。弟島の水辺は、小面積ながら岩穴や木の根などの隠れ場所が多く、そっと近づいてもウシガエルはすぐに物陰に隠れてしまいました。手捕りや釣り、巻き網なども試しましたが、上陸して苦労して4、5頭を捕獲しても一向に減る様子は見られず、目撃されない個体が多くいるのだろうと推測されました。そのような状況から、人がいない間にも捕獲圧を掛け続けられる作戦にしようとの考えに至り、いくつか試した結果、魚類用のトラップ、特にアナゴカゴにウシガエルがよく掛かることが分かりました(図05)。トラップには誘引餌を入れずに、水辺に多数のトラップを置き、動き回るカエルがたまたま入るのを待つ作戦です。水面面積約100m2の池を中心に、合計60個あまりのトラップを設置し、しばしば池を訪れて捕獲状況を確認しました。さらに、池の岸辺に鳴き声を録音するための自動録音装置(ICレコーダー)を設置して、もしウシガエルが頻繁に鳴けばその存在を確認できるようにしました。

【図05】ウシガエルの捕獲に用いたトラップ(左:モンドリ、右:アナゴカゴ)


【図06】弟島におけるウシガエルの捕獲状況と累積捕獲数
【図06】弟島におけるウシガエルの捕獲状況と累積捕獲数

 2005年の6月にトラップの設置を開始し、効果はすぐに出てきました。鹿ノ浜では、2005年には繁殖しましたが、2006年以降は繁殖を確認していません。捕獲を開始した2004年4月から、最後の個体が見られた2007年6月まで、合計64個体の成体(親のカエル)・幼体(子供のカエル)が捕獲されました(図06)。その後、ウシガエルの姿も音声も全く記録されていませんでしたが、念には念を入れて2009年までトラップを設置した上で、環境省は弟島におけるウシガエルの根絶を宣言しました。
 ウシガエルの対策から少し遅れてノブタの駆除も開始され、こちらも根絶に成功しています。今では、地元NPO法人の協力により、トンボ類が繁殖できる人工池の設置・維持や渓流の環境整備が行われ、固有トンボ類の保護増殖が続けられています。
 大面積の止水域を欠き、干ばつによって水域が干上がることも多い弟島の環境は、ウシガエルにとって暮らしにくい生息地であったと推測されます。それでも、弟島のウシガエルは人為的に持ち込まれた戦前から戦後50年間は生き残ってきたことになります。ノブタの捕食を受けながら、おそらく数十頭の個体数を細々とつないできたものと考えられますが、外来種対策は、それにとどめを刺しました。
 もし、防除の順番を考えずに間違ってノブタの対策に先にとりかかっていたら、ウシガエルが大繁殖した可能性も否定はできません。多くの外来種が見られる島や水辺では、この例のように「防除の順番」に配慮しながら、その地域の環境と対象種に合致した手法を取り入れることが重要であると考えます。

※本コラムは、戸田光彦氏(一般財団法人 自然環境研究センター)に寄稿いただきました。


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