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「ようこそ、外来種問題の世界へ」バックナンバー

0112016.09.06UP工夫の積み重ねが生んだ防除成果-ケーススタディ:伊豆沼・内沼のオオクチバス対策-

オオクチバス
オオクチバス

 釣りの対象となっているオオクチバス(通称:ブラックバス)ですが、在来の魚類を捕食するなどの生態系への影響について取り上げられてからは、“侵略的外来種” として我が国で最も有名な種の一つとなっています。
 今回は、そのオオクチバスについて、ゼニタナゴなどの絶滅が危惧されている魚類などが生息している宮城県の伊豆沼・内沼の対策を紹介します。伊豆沼・内沼は、マガンなどの渡り鳥が多数飛来し、ラムサール条約湿地に登録されていることでも知られています。

急激に分布を拡げたオオクチバス

 オオクチバスは、日本には1925年に神奈川県芦ノ湖に放流され、そこから長崎県白雲の池(1930年)や群馬県田代湖(1935年)などに放流されました。1970年代になると密放流などより一気に分布が拡がり、2001年には全国各地で確認されるようになりました。本種が入り込んだ水域では、高い捕食能力により、在来魚や昆虫が捕食されることで、生態系に大きな被害が生じました。


オオクチバスの分布拡大状況
オオクチバスの分布拡大状況

 オオクチバスは、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」が平成17年6月に施行されるのと同時に特定外来生物に指定されました。法律の施行と同時に指定された特定外来生物は43種類ありましたが、特にオオクチバスについては、オオクチバスに特化した専門家の会議が設置されるなど、釣りや漁業関係者も含めた議論が行われていました。
 平成27年3月に作成された「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」においても、“特に緊急性が高く、各主体がそれぞれの役割において、積極的に防除を行う必要がある”種として「緊急対策外来種」に位置付けられました。
 現在も、全国各地で網や電気ショッカー船を用いたり、かい堀を実施したりする防除が行われており、一定の成果が出てきていますが、一度定着してしまったオオクチバスを完全に根絶することは非常に難しいことでもあります。

伊豆沼の事例!

 宮城県北部に位置する伊豆沼・内沼は、水面面積387ヘクタールの自然湖沼です(1982年国指定伊豆沼鳥獣保護区に指定、1985年ラムサール条約湿地に登録)。1996年頃からオオクチバスの漁獲量が増加し、2008年からブルーギルが増加しました。
 外来魚の食害によって在来魚が激減するなど生態系への影響が大きくなってきたため、在来魚の復元、生物多様性の回復を目的として、オオクチバスなど外来魚の駆除活動を行政(国・県・市)、民間団体、地域住民、漁協等が連携して実施することとなりました。

外来魚駆除の取り組み

 地元の漁協では、漁獲量減少の抑制策として、2001年にオオクチバス駆除を開始しました。
 さらに2003年からは(公財)宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団が、オオクチバス駆除とゼニタナゴなどの在来魚の復元を柱とした「ゼニタナゴ復元プロジェクト」を開始し、翌年には駆除活動の担い手となるボランティア団体「バス・バスターズ」を結成して駆除活動を実施しています。
 環境省東北地方環境事務所では、2004年からオオクチバスの防除事業を開始しました。(公財)宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団、バス・バスターズ、漁協などの協力を得ながら、人工産卵床などによる駆除を実施し、また、ブルーギルに対する有効な駆除技術を確立するため、漁具を用いた捕獲方法の改良試験なども行っています。さらに、ブラックバスの駆除マニュアル、池干しによるオオクチバス駆除マニュアルなどを作成し、普及啓発にも努めています。

関係者が連携した駆除活動
関係者が連携した駆除活動

ブラックバス駆除マニュアル
ブラックバス駆除マニュアル

池干しによるオオクチバス駆除マニュアル
池干しによるオオクチバス駆除マニュアル


成果

 駆除マニュアルや生活史にあわせた様々な駆除活動の結果、オオクチバス、ブルーギルの個体数は減少傾向を示すようになりました(下図3点を参照)。

人工産卵床によるオオクチバス産卵床の駆除数
人工産卵床によるオオクチバス産卵床の駆除数

稚魚すくいによるオオクチバス稚魚の駆除数
稚魚すくいによるオオクチバス稚魚の駆除数

人工産卵床によるブルーギル産卵床駆除数
人工産卵床によるブルーギル産卵床駆除数


 また、外来魚の減少に呼応するように、在来魚は回復傾向を示すようになりました(下図参照)。

伊豆沼・内沼における在来魚の捕獲数(定置網)の推移(宮城県内水面水産試験場・宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団調査より)
伊豆沼・内沼における在来魚の捕獲数(定置網)の推移(宮城県内水面水産試験場・宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団調査より)

今後の課題と方向性

 しかし、回復してきた魚種は、モツゴ、タモロコが中心で、オオクチバスが増加する前とは大きく異なっており、本来の生態系を取り戻すためには課題もあります。オオクチバスなどの生息密度が低下したあと、さらに根絶に向けた駆除技術の開発や駆除活動量の確保、ブルーギルの駆除技術の確立などの課題も残っています。また、在来魚の復元、生物多様性の回復を図るため、保全技術の改良・開発を継続するほか、市民参加型駆除活動や伊豆沼・内沼自然再生事業など、伊豆沼・内沼で実施されているさまざまな関係事業を連携させていくことの重要性が高まっています。
 そんな中、2015年7月、伊豆沼では、1996年以来19年ぶりにゼニタナゴが確認され、今後の活動にとって明るい話題となりました。外来種の密度が低下するとともに、保全対象種の回復が確認されたことは活動をする関係者に大きな希望を与える出来事です。

 広い面積に拡大してしまった外来種の防除は、一朝一夕にはいきません。本事業は、効果的・効率的な防除を進めていくために、関係者が技術開発や駆除活動を根気強く続け、知見と実績を積み重ねてきたことが成果に結びつきつつあるよい事例と言えます。


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このレポートへの感想

どんどん外来魚を駆除してくださいね


(2016.09.08)

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