太さ10cmほどの丸々と太ったモウソウチクを2.3mほどの長さに切り揃えて、間隔を4.5mほど離して2本並べる。のちに柱として立ち上げるこの2本の竹の間に、長さ5mほどの3本目の竹を、ちょうどコの字型の底をつけるように横に渡す。立ち上げたときに梁材になる部材だ。
コの字の角の重なり部分には、事前に直径12mmほどの穴をあけておき、丸竹の穴同士がつながるように重ねて置いて、ボルトを通して固定する。この時ポイントになるのは、2本の柱材の一方は横に渡す梁材の上側に乗せて固定するのに対して、もう一方は逆に下側に差し入れて固定すること。立ち上げたときに、前後にクロスするように取り付けるわけだ。
さらに、連結した3本の竹のコの字型の角を斜めに渡すように、4・5本目に当たる約3.6mの丸竹2本を取り付ける。根元側は柱材から少しはみ出るくらいの位置で固定し、先端部を中央に合わせてクロスさせるようにしてボルトで固定する(写真参照)。
ここまでの工程によって、漢字の「内」の字にも見える構造体が組みあがる。前述した、コの字の底になる5mの竹を上下(前後)で互い違いに取り付けるのは、この4・5本目の竹で作る「内」構造の「人」部分がバランスよく中心で重なるようにするための設計上の工夫だ。
この段階では、横に渡した3本目の梁材と、斜めに取り付けた4・5本目とはボルトを通していない。太さの異なる自然素材では、ボルト穴の位置が図面上で定まらないためで、後ほど形を整えた後に、現物合わせで穴をあけて固定する。
このまま、最初に置いた2本の竹が柱として垂直に立つように、一気に立ち上げる。それなりの重量感があるから、人数を確保して安全に立ち上げていく。
立ち上がった「内」構造は、本来、圃場で組み立てるときには、柱の竹材をレンガやコンクリートブロックなどの敷材の上に乗せる。この敷材が基礎となって、ハウス全体の重量を支えるとともに、地面からの湿気で柱の竹材が痛むのを防御する役割も果たす。基礎の脇には、単管パイプなどの杭材をぐらつかなくなるまでしっかりと地中に打ち込んでおき、柱竹の根元を縛り付けて固定する。
「内」字構造の形が整ったらボルトを締め上げて、まずは一面を完成させる。同じような「内」構造を、ハウスの奥行きに合わせて4.5mほどの間隔で必要な個数設置する。
次の段階で、いよいよ「ハウス」の躯体として全体を支える家構造が形作られていく。「内」構造の頂点及び両脇に、長さ6mほどの竹を渡していくことで、独立した「内」構造同士をつないでいく。入り口側と奥の壁になる2枚の「内」だけの1スパン構造なら6mの桁材で十分届く(あまる)が、間に1枚入れた2スパンにすれば、奥行きの全長は4.5m×2スパンで9mほどになり、6mの桁材1本では足りなくなる。さらに「内」構造の枚数を増やしていけば、圃場等のサイズに合わせてさらに延長することもできる。実際、高松では、奥行き44mのハウスを建てて使っている例もある。
桁材をつないで6mを超える長さを確保するには、根元の太い端に、別の竹の先端部を十分な強度が保てるように50cmほど差し込んで、番線等で括って抜けないように固定する。桁材と梁や柱との接合部をボルトで締めたり、番線を括ったりしていくにしたがって、全体がかなりしっかりと固まっていく。
ここまでできたら、桁材の上に幅5cmほどに割いた長さ6mほどの竹材をサイドから、アーチを描くようにして乗せていく。間口が4.5mで棟高も3mを超えるハウスだから、6mのアーチ材1本では端から端まで渡し切ることができない。そこで、ハウスの両側から2本の割竹を被せていき、頂部で重ね合わせて、針金などで縛り付けていく。強風などで力がかかっても動かないように、頂上や脇に載せた桁材との交点でしっかりと針金を括り付けていき、ふんわりと丸いアーチ形状を固めていく。50cmmほどの間隔をあけて、アーチの割竹をハウスの長辺に沿って載せて、針金で縛って固定すると、全体がカマボコ状に覆われていく。
桁材やアーチ材に、ビニペットと呼ばれる固定金具を木ネジで取り付けてハウス用のビニールフィルムを張っていけば、竹製のビニールハウス「バンブーグリーンハウス(Bamboo Green-House)」が完成する。
2019年12月8日に兵庫県丹波篠山市福住地区で開催された「2019年BAMBOO GREEN-HOUSEの集い」では、こんな竹材を組み合わせて作るビニールハウスの実物大モックアップの組み立て講習の時間が設けられた(基礎となる杭への括り付けやビニールフィルムの張り付けなどは省略)。百聞は一見に如かず。実際の建設工程を模擬体験することで、写真や図面だけではわかりにくい勘所をつかむのに効果てきめんとなった。
「集い」の主催は、京都大学地球環境学堂人間環境設計論分野の小林広英研究室が中心になって推進する「バンブーグリーンハウス(BGH)プロジェクト」。モックアップ組み立て講習の他にも、実際に営農で使われている事例の現地視察や、実践者たちによるパネルディスカッションなどの企画を盛り込んだ初の試みは、バンブーグリーンハウスをキーワードに全国各地から集まった総勢40名ほど(スタッフ等関係者を含む)にとって、貴重な情報交換及び交流の機会となった。
バンブーグリーンハウス(Bamboo Green-House)の「バンブー」は、「竹」を表す。では、「グリーン」と「ハウス」は何を表すのか。
竹林から伐り出してきたばかりの青竹を洗って磨いて発色する鮮やかな「緑色」と、それを「家」形に組み立てるところから名付けられたのだろうか。はたまた、乾燥させない生木のままの材料を意味する「Green Wood」からとった名前なのだろうか。
キーとなるのは、間の「-(ハイフン)」で、「Green-House」とつなげて読むことで「温室」を意味する(ハイフンなど区切りなしの「Greenhouse」と表記されることもある)。地球温暖化が大気中の二酸化炭素などの増加による温室効果の強まりによって起こるというときの「温室効果」は、まさに「Green-House Effect」。つまり、施設園芸で使われるビニールハウス温室の金属支柱の代わりに竹材を使うことで、地域資源を活用したセルフビルドのハウスとしてデザインしたわけだ。
ただ、その語感からイメージする姿は、実は人それぞれ、千差万別かもしれない。実際、のちにバンブーグリーンハウスを建設することになった岐阜県本巣市在住の田渕琢真さん(当時、地域おこし協力隊として赴任)もはじめて聞いたときには“竹の家屋(ハウス)”のイメージが強く、農業用ビニールハウスとの発想にはならかったという。
岡山県津山市で2019年5月に地域内外の人たちと協力してバンブーグリーンハウスを建てた、任意団体「たかくらぶ」の藤長一人さんも、クラブの代表者から“竹ハウスを作るぞ”と言われて最初に思い浮かんだのは、竹の住居だったという。建設手順の検討のために作った模型はイメージ共有に役立ったが、要は説明するより模型を見せた方が早いということで作った模型でもあった。
2009年にスタートしたバンブーグリーンハウス(BGH)プロジェクトでは、最初に設計したタイプ1から現行のタイプ4まで、各地で実践的な試行設置とフィードバックを経て、進化を遂げてきた。すべての図面を描き起こしてきた、プロジェクトリーダーで、京都大学地球環境学堂教授の小林広英さんは、竹という素材の特殊性を生かして発展してきたプロジェクトのこれまでの経緯について、次のように話す。
「本来、建築の設計では、構造計算をしてリスクのないことを確認してから建て始めるのが基本なんですけど、竹という素材は経年変化によって強度がどんどん変わっていきますから、工学的な検証というのがなかなか計算として難しいんです。第1号のプロトタイプのときには、元禄時代から続く京都の竹屋さんの経験があってできあがったようなものでした。これまで失敗や試行錯誤もありましたけど、いろいろと機会をいただくたびに、ある意味実験をさせてもらいながら、それを検証してつくり上げていったといえます」
現行のタイプ4は、構造体となる「内」構造と、ビニールフィルムを保持するアーチ部材が役割を分担することで、がっしりとした耐風性と竹ならではのしなやかさが両立するとともに、内部の無柱化によって広い耕作空間の確保を実現した。ほぼ完成形に近づいたこのタイプの普及を進めるため、BGHプロジェクトでは建設プロセスや各地の事例とともに設計図面も掲載したマニュアルを制作・発行して、希望者には送料のみの負担で配布している。
かつて、暮らしの中で竹材を含む里山資源が循環的に利用されてきたことで保たれてきた里山景観は、人手が入らなくなったことで荒廃してきている。失われつつある循環を、昔と同じようにはできなくても、何らかの形で復元することで、暮らしが豊かになるのではないか。そのための竹の循環利用の一端を、バンブーグリーンハウスで取り戻せないかというのが、プロジェクトからのメッセージだ。もちろん、この取り組みだけで解決することにはならないから、質のよい材料はハウスなどに使って、一番最後にはバイオマス燃料として使っていくなど、カスケード的にさまざまな用途に使っていくことも欠かせない。そんなふうにして、グローバル化する市場経済主体の今の生活の中で、失われつつあるローカリティの視点の重要性を認識した上で、どんな暮らしを選んでいくか一人一人が捉え直していくプロセスを経ることが大事なのではないかと小林教授は言う。
「竹のハウスをつくることで、やはり自分たちの身の回りにある地域の資源を使って生活できるってええよなって思えるような感覚が得られるのならやっていただければいいし、そうじゃなくて便利さが大事だねというんやったら、そっちの方向にいくのも構わないんです。ただ、それを判断するような機会をつくった上で選び取ってもらいたいというのが、この活動の根底にあるモチベーションになっています。それとともに、建物を造るのって、何か特別な喜びもあって、建ち上がった時にアドレナリンがブワーっと出てくるような高揚感があるんですよ。それって、たぶん祭りのお神輿とも近いような気がしていて、みんなで力を合わせて、徐々に形が見えてきて、できた、わーっと盛り上がっていくようなところがすごくおもしろいんですね。だからこそ、そんなに産業的なものではないんやろうけど、地域の人たちにとって何かしらの役割があるんちゃうかなと思いながら、これまで続けてきました」
2009年4月に試行建築タイプ1を建ててから丸10年の節目の年になった2019年。全国各地では30棟を超える建設実績を数えるまでになった。2015年4月に開設したfacebookページには、2019年12月現在350人を超える人たちが登録して情報交換・共有を行っている。新たな建設をめざしてマニュアルの送付を希望する人や関心を示す声はさらに広範囲に広がってっている。
場所や人が違えば、抱える課題やバンブーグリーンハウスに寄せる期待もそれぞれ異なる。高齢過疎集落でちょっとした小遣い稼ぎに活用するためのハウスとして、元手をかけずに建てられるバンブーグリーンハウスを集落の中で広げて、ネットワーク化を進めてきた事例もあれば、Uターンで新規就農した若者がスタートアップに利用する都市近郊農業での活用事例もある。
農業高校では竹林整備の実習で伐ったあとの竹材の活用がなく放置したまま終えていたところでバンブーグリーンハウスを建設して活用する取り組みへと発展させて、全国大会で最優秀賞を受賞した。竹林整備の出口活用の重要性とともに、かかわった高校生たちにとっては目に見える実績が次のステップへの自信にもつながった。
地域おこし協力隊が地域の課題解決の一環として建設を試みた結果、建設作業を通じて地元住民とのコミュニケーションや信頼関係の構築にも役立ったという事例もある。関係者間では、「3度の打ち合わせより1度の飲み会、3度の飲み会より1棟のBGH(バンブーグリーンハウス建設)」などとも表現している。
東京都内でも、骨組みだけの建設途上の事例がある。東京都本土唯一の村として知られる檜原村の山奥でバンブーグリーンハウスを建てているのは、地域おこし協力隊の任期を終えて移住し、檜原村ワサビ田復活プロジェクトを推進している細貝和寛さん。2019年3月の福山市での建設作業にも参加して経験を積み、SNS等で呼びかけた都内外の協力者といっしょに、設計図面を頼りに試行錯誤しているところだ。ハウスの用途は、ワサビの苗床を保温するとともに、ワサビ田へと向かう登山道の入り口に設ける交流スペースのシンボルとしても活用したいと話す。
個人や小グループによる取り組みだけでなく、企業がCSR活動の一環で取り組む例や自治体として取り組んでいこうという動きも見られている。廃油処理企業がCSR活動の一環により立ち上げた地域連携プロジェクトでは、廃校を利用したアップサイクル拠点の建設と竹林整備を行い、伐り出した竹材を活用して建設するバンブーグリーンハウスで高付加価値農産物の生産を行う計画だ。併せて、残りの廃材等をバイオマスボイラーで発電にも生かす。まさにカスケード利用によって竹のすべてを活用するモデルといえる。放置竹林の問題の根本解決にはある程度のスケール感も必要となるから、こうした取り組みには、BGHプロジェクトとしても期待している。
バンブーグリーンハウス(BGH)プロジェクトでは、設計図や建設ノウハウなどはすべてクリエイティブコモンズライセンス(CCライセンス)によるオープンソースとして無償で公開している。地域の課題解決に役立てるためのツールとして広く活用してほしいという思いを込めるとともに、製品としての提供ではなく、図面等を見た人たちが自己責任として建てるものにしてもらうためでもある。
規格品ではない自然素材を使って、素人集団がセルフビルドで建てられるものだから、素材の状態や作り手の技術力等によって、同じように作っても仕上がりが同じようにできるとは限らないからだ。
ただし、公開の条件として一つお願いしているのが、“美しく作ること”と小林教授は言う。
「イメージとしては、茅葺屋根の民家のように、地域の風景になることをめざしています。自然景観に溶け込むようなものになって、農村の中で維持されていく、そんなものになっていってほしいという乙女チックな思いもあるんですよ」
美しさは見た目だけでなく、機能性にも直結する。部材を設計通りの長さに切り揃えて、きっちりと組み立てることで、構造的な強度を担保する。少し面倒な作業に思えるかもしれないが、切り口や割り端のバリ取りをしたり、枝や節の突起部分を削ったりと丁寧な下処理をすることで、ビニールの突き破りなどによる破損を最小限に抑えることにつながる。
ビニールもきっちりと張ることで見た目に美しいシルエットを作り出すとともに、密閉性を高めて保温力を向上したり、風によるバタつきによる破損リスクを軽減できたりする。
バンブーグリーンハウスの利点は、材料となる竹材やビニール資材等が調達できさえすれば安価に建てられるということに加えて、部分的な入れ替えを含めた補修・メンテナンスがしやすい点にもある。現代の施設園芸が、建設やメンテナンス等も人任せのブラックボックス化した消費行為と化している側面があるのに対して、セルフビルドで設置し、竹材の割れ等による破損や水濡れによる腐れなどが発生したところを部分的に交換して補修していくことで、長期間の使用に耐えるものとして使用できる。ここでも、メンテナンスフリー等の便利さをとるか、面倒はあっても自分たちの技術範囲で扱えるものをとるかという選択があるといえる。
全国各地で建設されてきたバンブーグリーンハウスは、すでに倒壊等によって現存しないものもある一方で、建設から5-7年の月日を耐えて活用されているものもあって、竹のハウスといっても十分使えることが実証されている。
最後に、「集い」の会場となった丹波篠山市福住地区で進行中の「バンブーバスストップ(Bamboo Bus Stop)プロジェクト」について紹介して、本稿を締めたい。江戸時代には京都と篠山城を結ぶ宿場町として栄えた福住地区は、2012年12月に国の重要伝統建造物群保存地区(重伝建地区)として選定された。プロジェクトでは、その旧街道沿いに点在するバス停を、山から伐り出し、火で炙って油抜きした竹材を活用してきれいに装飾して、年に1棟ずつ改修してきた。2017年度には終着の「福住」バス停、翌2018年度は重伝建地区の入り口に当たる「原山口」バス停を改修。訪問当時は3棟目となる「西野々」バス停もほぼできあがっていた。このプロジェクトは、京都大学小林研究室の学生主体活動として、当時博士課程の宮地茉莉さん(2019年10月より助教)が主導して、元地域おこし協力隊(福住地区担当)で現在は同地区に移住している岸田万穂さんら地域住民や高校生たちとともに取り組んでいるもの。
バンブーグリーンハウスにとどまらない竹の活用が地域の中で広がっていくことで、竹や竹林に対する見方が変わっていく、そんな取り組みの一端が垣間見えるようだ。
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