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「ゲストハウスを旅する」バックナンバー

0022017.12.19UP離島の小さな宿で起きた大きな変化の息吹き-古民家ゲストハウス汐見の家(愛媛県佐島)-

「こんなところに誰が来る?」と島のみんなが思っていた

続きの和室に縁側、座卓で鍋を囲む風景
続きの和室に縁側、座卓で鍋を囲む風景

 前回ご紹介した愛媛県芸予諸島・佐島(さしま)にある古民家ゲストハウス汐見の家。こちらは1年半ほど前、2016年春に開業しました。有名な観光施設もないこの島ですが、今は島好きのサイクリストやふらりと立ち寄った旅人、さらには外国人旅行客も訪れ、つかのまの「田舎のおばあちゃんち」気分を味わい、帰っていきます。

 佐島は人口480人程ですが、汐見の家の滞在をきっかけに移住や長期滞在をした若者はこの3年でなんと14名。今年度の宿泊者数は700人近くになりました。
 「もともととてもおおらかで温かい気風で、海外とも行き来があった土地なので、ちょっと毛色の変わった人が出入りするようになったなという程度では?」と話すのは、汐見の家のオーナー西村暢子さん。

島の路地は細く入り組んでいる
島の路地は細く入り組んでいる

 建物は西村さんの祖父の弟に当たる日系1世のロバート汐見氏が戦後に生家を建て直したもので、実家の処分のため30年ぶりに佐島に来訪した西村さんが、しまなみ海道の美しさと家の佇まいに感動し、「処分するのではなく、この古民家を再生したい」という思いからゲストハウスが誕生しました。
 開業後、静かだった島は少しずつ変化してきていますが、島のみなさんは迷惑がることも過剰に期待することもなく淡々と見守ってくれていると感じるそう。以前は「こんな何もない島に誰が来る?」と言われましたが、そうした声は最近は聞かなくなりました。

島全体で子育て。女将の桂子さんが感じる島のあたたかい空気

子どもも大人も犬も。島民全体で子育て
子どもも大人も犬も。島民全体で子育て

 この古民家ゲストハウスを仕切っているのは女将の富田桂子さん。2人のお子さんを持つシングルマザーで、この宿のマネジメントをするために愛媛県伊予市から移住。彼女の生活もまたこの島で大きく変わりました。
 子どもがいることで迷惑がかからないかという心配も、「子どもの声が今までなかったからうれしい」と、島のひとたちはとても好意的。保育所から家まで5分ほどの距離ですが、島のみなさんに声をかけてもらって寄り道していると、あっという間に1時間経っている、なんてことがよくあるそう。
 また、子育ての何気ない育児の相談もでき、子どもたちも島民全体で見守られ、愛情たっぷりいただいて大きく育っているのが安心できてうれしい、と桂子さん。

猫も常連?汐見の家の和室で日向ぼっこ
猫も常連?汐見の家の和室で日向ぼっこ

 桂子さんが予想していた以上に、離島好きな方が佐島を訪れています。訪れたゲストが島ののんびりした時間を楽しんでいるのがわかり、見ているほうもほんわか。
 ゲストの方の旅の話を聞くうちに、桂子さん自身も他の島に興味をもちはじめました。「わざわざ橋を渡って船に乗ってきて頂く方は皆さん素敵で良い方ばかり」と話す桂子さんとファミリーの細やかな気遣いで、何度も通うリピーターの旅行客も増えています。

「何もない」はずの島に再発見された「たからもの」たち

静かな瀬戸内の海に反射する夕暮れの光
静かな瀬戸内の海に反射する夕暮れの光

 もうひとり、汐見の家を切り盛りするスタッフの工藤美絵さん。関東暮らしが長かった美絵さんですが、島に来る1年前から今治市のゲストハウスでスタッフ経験があり、縁あってここ汐見の家にやってきました。
 欧米からのゲストのゆったりした旅の仕方をみて「日本人もこういう風に島でゆっくり過ごしたらいいのになぁ、そんな場所にしていきたい」と思った美絵さん。リピーター率も高く、ひととき田舎でゆっくり暮らしたいというニーズが高まっているのを感じています。

 島の人たちは穏やかに見守ってくれていると感じるそうですが、少しずつ島の人たちの意識も変わってきているようです。
 「あんたんとこたくさん人来るやろ。いつも捨ててるんだけど持って来たわ!」
 と、野菜の差し入れが増えました。夏はきゅうり祭りゴーヤ祭りナス祭り!の様相。五右衛門風呂用の薪の差し入れもあり、今のところ薪の確保も困ったことがないそう。
 美絵さんに今まで一番うれしかったことは?と質問すると、島のおばちゃんに言われたこの言葉だったと返ってきました。
 「あんたらがいつも夕陽がきれいきれいゆうから見てみたら、ほんとにきれいやったわ?気づかんかった!」

 島の人たちには当たり前過ぎて、気づきもしなかった自然の豊かさ、時間の流れ方、夕陽の美しさが、旅人や移住してきた宿のスタッフとの交流のなかで、そのことに気づく。「何もない」と思っていた島が、国内外の旅人たちによって再発見されることで、島が宝物だらけだ、と気づいたそんな瞬間だったのかもしれません。

移住者が増え、ショップが出来て少しずつかわる島民の意識

島で採れたゴーヤは見た目もたくましい!
島で採れたゴーヤは見た目もたくましい!

 汐見の家は、佐島港からすぐ近くですが、小さい路地の中にあるので道に迷う人もいます。そんなときは、島の方が案内してくれたり日本語が通じない場合は連れてきてくれることもあり「今お客さんが降りたよ」とバスの運転手さんから電話をもらったりすることもあります。

 外国人旅行者が来るようになったため、芸予汽船(今治ー因島航路)のチケット販売機にアルファベットが追加されました。さらに「人が来るようになったけん、きれいにしないと」と道のゴミ拾いをする人も出てきた!そう。

 また、橋で繋がっているものの、お隣の弓削島まで行かないと飲食店やスーパーがなかった佐島に今年の夏、「佐島しまのひろば」というショップができました。ここでは佐島で採れた野菜の直産市や隣の弓削島から週に2回パン屋がやってきます。
 高齢で畑を止めてしまった方や交通手段のない方などに好評で、出店者も「なんの野菜が良いやろか?」と楽しんでいます。この場所ができたことで、島の人たち同士でコミュニケーションを取る機会も増えているようです。

 そうした流れの中で増えたのが移住者や長期滞在者。小さな数ではありますが、若者中心の移住者が起こしたものは、確実に島の人たちの意識にも大きな影響があるようです。それは小さな離島が持つ可能性。自分たちが「何もない」と思っているコミュニティや自然の美しさこそ、現代日本社会にとってはかけがえのないものだと気づくこと。日本国中でそうした豊かさのパラダイムシフトが起こったなら、きっと幸せな未来がもっと身近なものになるような気がしています。

エコな取り組みと島の経済維持の両立を目指したい

中庭にある井戸水と五右衛門風呂の沸かし口
中庭にある井戸水と五右衛門風呂の沸かし口

夜になるとライトアップされる橋が美しい
夜になるとライトアップされる橋が美しい

 汐見の家は、無理のない範囲でエコロジカルな環境にも配慮しています。
 「ゲストには快適過ぎない、むしろ日常レベルの自然の不快さも楽しんで貰いたい」という理由でエアコンなどは入れず、薪を使った五右衛門風呂や井戸水の利用、バイオトイレも実験中、将来的には太陽光パネルの活用なども考えているそう。

 ただ、一番大事なのは島の方とスタッフの生活だとオーナーの西村さんは話します。
 「穏やかな佐島の暮らしには本当の豊かさを感じます。汐見の家はゲストさんに島ぐらしのおすそ分けをしているのです。ゆるやかに右肩下がりだった島の人口と経済ですが、維持出来る方向に切り替えるためにささやかな試みを続けて、支えて下さる島の方々に少しでもお返しが出来ればと思います」

 島の生活を大きく変えつつある小さな一軒の古民家ゲストハウス。島のしずかな雰囲気とそこに生まれている新たな息吹を感じにぜひ足を運ばれてみてはいかがでしょうか。


■古民家ゲストハウス汐見の家
 〒794-2520 愛媛県越智郡上島町 弓削佐島299
 http://shiomihouse.com/


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