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「まちの近くで里山コネクト」バックナンバー

0012021.12.07UPナラ枯れ後の雑木林を再び回そう

多摩丘陵の雑木林で一気に拡大したナラ枯れの被害

 はじめまして。
 よこはま里山研究所(通称:NORA)という環境NPOの代表を務めている松村です。
 国内には、里山の保全活動をおこなうNPOが数多くありますが、NORAは農山村ではなく都市近郊で活動しています。まちの近くの里山は、その自然環境が貴重であるだけでなく、都市に暮らす人びとが実際に足を運び、体験しやすいという魅力があります。
 このコラム「まちの近くで里山コネクト」では、東京近郊に残る里山(田んぼや畑、雑木林など)を見つめながら、日頃考えていることを書いていきます。初回は、昨年から関東地方で被害が拡大しているナラ枯れを取り上げます。

 私の日常生活圏は多摩丘陵にあります。自宅裏山の雑木林は高尾山と緑でつながっており、買い物は丘陵地を開発してできた街のスーパーやホームセンターをよく利用します。また、毎週農作業に通っている有機農場は、町田市北部に残る里山の中にあります。
 このように身近な多摩丘陵の雑木林で、昨年からナラ枯れの被害が目立つようになりました。そして今年は、その被害が一気に拡がり、どこに行っても視野の中に被害木が必ず含まれるほどになりました。先日、NHK-BSプレミアムの『新日本風土記』で多摩丘陵の特集番組が放送されましたが、里山のドローン映像にはナラ枯れの様子が鮮やかに映し出されていました。

青々とした木々の中で茶色く変色するナラ枯れ被害の様子(町田市)

青々とした木々の中で茶色く変色するナラ枯れ被害の様子(町田市)

青々とした木々の中で茶色く変色するナラ枯れ被害の様子(相模原市)

青々とした木々の中で茶色く変色するナラ枯れ被害の様子(相模原市)



2010年代前後、日本海側に集中していたナラ枯れ被害

 ナラ枯れは、ブナ科の樹木に発生する病気で、水を吸い上げる機能が阻害されて枯れてしまう樹木の伝染病で、カシノナガキクイムシ(カシナガ)という甲虫が幹に入りこみ、病原菌(ナラ菌)を感染させてしまいます。被害を受けた幹には多数の小さな穴が見られ、根元には大量の木屑(フラス)が落ちているという特徴があります。
 ナラ枯れは、すでに2000年代前半に社会的な問題になっていました。2010年代前後には、ナラ枯れの原因や対処方法については、森林総合研究所関西支所を中心に研究を進めた成果が公表されていました。
 しかし、当時は日本海側に被害が集中していたため、私はどこかよそ事として受け止めていました。その後も、2010年頃に被害のピークを迎えてから被害量は減少傾向にあったので、終わった問題のようにとらえていたのです。
 それが2018年-19年に東京・神奈川で被害が確認され、昨年中に急拡大し、今年は手の施しようがないくらいまで拡がりました。実際、多摩丘陵以外でも南関東の各地から、ナラ枯れ被害の急速な拡大が報告されています。

ナラ枯れの被害を受けた幹には多数の小さな穴が見られる

ナラ枯れの被害を受けた幹には多数の小さな穴が見られる

 今年の夏、東京・神奈川の公園緑地を管理されている方々から、ナラ枯れ被害の現状や対策について報告を聞く機会がありましたが、どこも状況は似たり寄ったりでした。2019年に被害を確認したので、2020年にはカシナガが幹に入らないようにラップを巻くなど防除策を講じてみたが、ほとんど効果がなかった。人員も予算も限られるので、2021年は被害を押さえ込むことは諦め、安全対策を優先して広場や散策路など人が通るところにある枯損木を伐採。それ以外は放置しており、被害木を林外に持ち出す余裕もないような状態とのことでした。一般にナラ枯れは5年程度で被害が終息に向かうと言われていますので、嵐が過ぎ去るのを待つかのように、しばらくは人的な被害を防ぐことくらいしかできないのかもしれません。


雑木林が大径化したことで一気に拡がったナラ枯れ被害

 ナラ枯れの被害は大径木に多いことが分かっています。南関東では雑木林を代表するコナラに被害が集中しています。高度成長期に薪炭から化石燃料へとシフトした燃料革命以降、雑木林の多くは開発され、残ったところも多くは管理されずに放置されました。また、公園の中で守られた雑木林では、その景観を利用者に楽しんでもらうために、低木や下草が除かれて高木が残されました。このように放置されたり、意図的に守られたりした雑木林が大径化したために、ナラ枯れが発生すると一気に拡がって被害を食い止めることができなくなったと考えられています。
 これまで市民参加による雑木林の保全活動では(特に公園内では)、多くの場合、環境高木林を目標として、低木や下草を刈って高木のみを残してきました。しかし、この目標林型がナラ枯れを拡大させてしまったとすると、同じ目標に向けて保全活動をおこなうことは同じような被害が繰り返すだけだと思われます。すると、今考えておくべきことは、ナラ枯れ後の里山林をどうするかという将来ビジョンでしょう。

 このような考えからいち早く動き始めていたのが、植物生態学者の倉本宣さん(明治大学)でした。倉本さんは、今年に入ってから「ナラ枯れとその周辺課題」について考える勉強会を定期的に開催されています。私もときどき参加していますが、毎回、最新の研究や実践の成果が報告されて、とても刺激を受けています。先に説明した東京・神奈川の公園緑地の現状は、この勉強会で聞いたことです。
 この勉強会でポイントになるのは、テーマがナラ枯れにとどまらず、その周辺課題まで含むことにあります。この周辺課題という言葉には、ナラ枯れについては対症療法ではなく原因療法が必要であること、原因療法を講じるには、あわせて関連する諸課題も解決しなければならないという問題意識が込められています。

オンライン学習会のバナー

オンライン学習会のバナー

 私も同様の関心から、5月下旬に2週連続で「関東でもナラ枯れ拡大!2020年代における森林・里山マネジメントのゆくえ」と題した学習会を企画・開催しました。このときは、第1夜に奥敬一さん(富山大学)、第2夜に倉本さんをゲストに招き、話題提供をお願いするとともに参加者と考える機会を設けました。奧さんは、ナラ枯れに関する有益な情報をウェブ上に公表されている森林総研関西支所にかつて所属されていたので、十数年前に日本海側でナラ枯れが急拡大した頃のことをお知らせいただきました。おふたりのお話を総合すると、ナラ枯れの原因療法としては「小面積皆伐更新」が望ましいという結論が導かれました。この7文字熟語の意味するところは、かつて薪炭林として雑木林を利用していたときのように、毎年、小面積を皆伐して、たとえば15~20年程度で一巡させるというものです。かつてコナラやクヌギなどは、伐採後に出てきた萌芽枝を適当に間引き(もやかき)し、薪炭材として適当な太さになった頃にまた伐採することを繰り返していました。このような雑木林の循環的なサイクルを、あらためて再開させるという目標が、ナラ枯れ後の里山の姿として見えてきました。


雑木林サイクルの再起動に向けて ──ナラ枯れ被害の先にある問題

 実は、このような結論は、すでに10年以上前に公表されていた『ナラ枯れの被害をどう減らすか』(森林総研関西支所)に書かれていたことです。だから、進むべき方向はかなり前から分かっていたわけです。問題はその先にあります。
 雑木林サイクルを再起動させるには、さまざまな課題があります。そもそも、雑木林が利用されなくなったのは、薪炭としての価値がなくなったからでした。今から薪炭の価値を高めることはできるのでしょうか。それとも、別の利用価値を引き出せるのでしょうか。また、大径化したコナラの伐採は技術的に難しく、ボランティアの手には負えないことが多いと思います。雑木林を伐採するにはコストがかかりますが、そのお金はどこから調達できるのでしょうか。小面積皆伐更新を現実的に考えようとすると、このような課題が一気に吹き出してきます。

手道具(ノコ・ナタ・カマ)の扱い方を学ぶ研修の様子

手道具(ノコ・ナタ・カマ)の扱い方を学ぶ研修の様子

 それでも、手をこまねいていると、ますます雑木林の管理が難しくなってきます。だから、議論することよりも、できるところから雑木林サイクルを始めること、そして各地でよい実践モデルをつくり、それを学び合うことが大事だと考えています。これは歴史の針を逆に回すようなもので挑戦的なプロジェクトですが、予想できたナラ枯れ被害の拡大を呆然と眺めるしかない者としては、ぜひ取り組みたい試みです。
 この機会に、ナラ枯れ被害に遭った雑木林を、いっせーのせで、ぐるぐると回していきましょう。


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