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「スマート・ハウスはどう進化していくか?」バックナンバー

0032018.01.16UP「ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)」の課題と「メリット&デメリット」

【図1】渋谷のイルミネーション(写真提供「青の洞窟 SHIBUYA」)
【図1】渋谷のイルミネーション(写真提供「青の洞窟 SHIBUYA」)

 早いもので、もう年の瀬です(この原稿を書いているのが12月25日のため、公開時には少し季節外れになりますが、ご了承ください)。
 この時期、繁華街や商店街の夜を彩っていたクリスマスのLEDイルミネーションが一気に片付けられて、一晩で華やかなお正月飾りに取って代わられます。クリスマス気分はあっという間に終わりを告げ、年末からお正月へと慌ただしく変わっていくのが肌で感じられる時期です【1】
 クリスマスの彩りにしろお正月飾りにしても、個々の電力はごく僅かですが、数万?数十万個ものLEDを使って夜通し灯し続ければかなりの消費量になるだろうと思います。こんな野暮な老婆心をつい抱かずにいられないのは、やはり環境を専門にしている仕事病かもしれません?!

ZEHの課題

 さて、前回、「ZEH(net Zero Energy House)」に対する課題の主なものを以下のように整理しましました。

  • ZEH初期導入費用の高さ
  • ZEH化のメリットの明確化
  • ZEH認知度の向上、
  • ZEH普及の社会的動機付け?低コスト化、利害関係者へのインセンティブ付与

 今回は、これらについて実情を踏まえながらより具体的に内容をみていきたいと思います。前回も触れたように、ZEHは技術的には既に十分実現可能な状況です。しかし、一般にスムーズに普及するにはクリアすべきハードルがまだ山積しています。

第一の課題:ZEH初期導入費用の高さ

 まず、なんと言っても一番気になるのは価格でしょう【2】

【図2】太陽光発電の国内導入量とシステム価格の推移(出典:エネルギー白書2017年度版)
【図2】太陽光発電の国内導入量とシステム価格の推移(出典:エネルギー白書2017年度版)

 図2を参考に、既存一戸建て住宅に太陽光発電システムを導入する場合の価格の変化を見てみます。1kW当たりのシステム価格はこの20年間で大幅に低下してきました。ここ10年の推移を見ても、2008年度に72万円/kwだったものが2014年度には39万円/kwへと約半減しています。一般家庭用で5kwレベルのシステムであればおよそ150?200万円程度で導入できるようになってきました。
 それでも、やはり、一般家庭で既存住宅に後付けとして設置するにはかなりの出費になることは間違いありません。さらに、ZEH化するには蓄電システム(?100万円)、管理システムとしてのHEMS(10?20万円)の導入も必要ですし、場合によっては太陽熱利用システムなどの設置も考えられます。全てを整備するための初期導入費用は総額で300万円規模になります。
 統計データ【3】によると一般家庭の平均光熱費は約20万円となっています。この支出がZEHでは基本的に0(ゼロ)になると考えれば、初期費用の300万円が15年程度で回収できることになります。
 一方、新築住宅でZEHを実現する場合を考えてみましょう。関東圏郊外の一戸建て住宅(3LDK規模)の建築費を5,000万円程度と想定すると、ZEH化コストは6?7%レベルになります。国の補助金制度は2014年度に終了していますが、多くの自治体で補助金制度を実施していますし、一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)【4】等の支援事業も実施されています。このような制度を上手く組み合わせて活用すれば、普通の新築一戸建て住宅とほぼ変わらない価格で新築ZEHが実現できます。
 追加的な初期投資なしに光熱費の負担を実質ゼロにできるのが、ZEHの大きな魅力だと思います。
 従来の住宅費の中でZEH化のための初期費用をどのように吸収していくかということが、ZEHの普及にとってとても重要なポイントだと言えます。

ZEHのメリットとは

 次に、ZEHのメリットを整理してみましょう。主なものとして次のような項目が挙げられます。

? 創エネ・省エネによりエネルギーコストを大幅に削減できる。
? 新築住宅では建築コストに組み込めるレベルに低価格になってきた。
? 余剰電力を売電して収入が得られる。
? 既存住宅に設置しても10?15年程度で費用の元が取れる。
? 補助金が利用できる。
? パッシブやアクティブ制御によって快適な居住空間を実現できる。
? 災害時にも対応できる。
? 家庭生活での環境負荷を低減できる。

 ???は前述のZEH導入コストにかかわるものですので、ご理解いただけるものと思います。図2の住宅用太陽光発電導入量(累計:図中、青線)が2010年から急増しているのは、このような認識が浸透してきた結果だとも考えられます。
 また?は以前のスマート・ハウスの連載で解説【5】していますので、そちらをご参考いただければ幸いです。
 ここで、特に指摘しておきたいZEHのメリットは?と?です。一時期の強い危機感は薄れてしまった感もある「東日本大震災」ですが、まだ避難生活を強いられている方々がたくさんいらっしゃるのが現実です。自然災害がいつどこで発生するかは、どんなに科学技術が発達しようとも、確実な予測は不可能です。
 であれば、日頃から災害時に備えておくことがとても大切になります。ZEHは、エネルギー(電気、熱)、場合によっては雨水貯槽タンクによる水の供給なども含めて、自給自足率の高い日常生活を実現する仕組みです。災害によって停電になったり断水したりしても、ある程度の生活を維持継続することが可能になります。言い換えれば、ZEHは日常生活の仕組みが、そのまま災害時の備えになっているのです。そして、環境面から見れば、生活に伴うCO2排出量は大幅に削減され、環境負荷の少ないライススタイルの実現にもつながるという?のメリットが得られます。

メリット/デメリットの洗い出しが重要

 メリットがある一方で、当然デメリットも考えられます。ただ、デメリットとメリットはある意味表裏一体的なものとして理解することができます。
 ???の費用的メリットは、裏を返すとやはり初期導入費用の負担が精神的な面も含めていまだ過大という現実問題があることを表しています。
 また、長期使用に対応して、継続的なメンテナンスや修理対応の体制整備も必要です。さらに、50?100年を想定した環境負荷の小さい長寿命住宅を考えた場合、ZEH機能の更新が必要になり、その時点での既設設備の廃棄処理も含めた費用負担などが、具体的なデメリットとして想定されます。
 どのような物事でも、新たな試みを進展させていくには、メリット/デメリットの洗い出しが議論になります。スマート・ハウス、あるいはZEHが確実な社会的認知を得る上でも、このような論点整理は必要な過程です。逆に言えば、今後、ZEHが社会に広く浸透していくことの期待へとつながるものだと思います。

 次回はスマート・ハウスがZEHへと進化するのに対応して、関連するICT(情報通信技術)の現在進行形の進化が今後のZEH機能向上にどのように関わってくるのか、独断と偏見も交えながら探っていきたいと思います。

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