メインコンテンツ ここから

「オーストラリアの野生動物保護」バックナンバー

0102014.03.18UP現場編(4)人に優しい暮らしを目指したら、カモノハシが戻ってきた!

リサイクル素材を利用したセレス・コミュニティ環境公園のゲート
リサイクル素材を利用したセレス・コミュニティ環境公園のゲート

 前回ご紹介した、野生動物との共存をうまくマネジメントし、観光へと繋げているフィリップ島の帰りに、メルボルンで興味深い活動をしている環境NPOを訪ねてきました。
 持続可能な暮らしを目指す上で欠かせない環境保護の大切さを、広く一般市民に対して啓蒙活動している「CERES(セレス)」というNPO団体です。CERESとは、Centre for Education and Research in Environmental Strategies(環境戦略のための教育と研究センター)の略です。

CERES(セレス)の主な活動

敷地の主な部分は自家菜園(ファーム)
敷地の主な部分は自家菜園(ファーム)

定期的に開かれるオーガニック・マーケット
定期的に開かれるオーガニック・マーケット

自家栽培の野菜の苗や種を販売するナーサリー
自家栽培の野菜の苗や種を販売するナーサリー

無料でチャージできるソーラー・ステーション
無料でチャージできるソーラー・ステーション

 CERESは、メルボルン中心部からトラムで20分くらいのところにあるブランズウィック地区にあります。メリ川のほとりに開けた4.5ヘクタールの広大な土地は、コミュニティ環境公園になっており、誰でも利用することができます。
 敷地内には、自家菜園をする農場、収穫した野菜やオーガニック食材を売るマーケット・スペースと売店、野菜や花の苗や種を販売するナーサリー、カフェのほか、エデュケーション・センター(学習施設)と一般の人が借りられるコミュニティ・スペースがあります。また、駐車場には、大きな太陽光パネルを使ったソーラー・ステーションがあり、そこで発電した電気を無料で充電することができます。

憩いの場にもなっているオーガニック・カフェ
憩いの場にもなっているオーガニック・カフェ

タイヤやパーツをリサイクルするコミュニティ・スペース
タイヤやパーツをリサイクルするコミュニティ・スペース

鶏を飼って卵を収穫するグループのコミュニティ・スペース
鶏を飼って卵を収穫するグループのコミュニティ・スペース

ソーラーパワーについて学ぶ学習施設
ソーラーパワーについて学ぶ学習施設


アボリジニや南太平洋の文化や生活を学ぶ学習施設
アボリジニや南太平洋の文化や生活を学ぶ学習施設

 農場の作物は、すべて農薬不使用のオーガニック。堆肥も敷地内からでる生ごみを処理して使っています。ここで販売される食品、そしてカフェで使用する食材は、すべてオーガニックです。また、ナーサリーで販売している苗や種は、すべて“パーマカルチャー【1】”理念に基づく栽培に適したものばかり。植える土地の土壌条件や気候についても詳しくアドバイスが受けられると、市民に好評です。
 一般の人が借りられるコミュニティ・スペースは、CERESの理念に基づいて「持続可能な暮らしを目指す」ために利用されています。鶏を数羽ほど飼って卵を収穫するグループ、自転車のタイヤやパーツなどのリサイクルや情報交換するためのスペースとして利用しているサイクリストのグループなど、様々な形でそれぞれの持続可能な暮らしを実現しています。
 CERESの活動で最も重要なのは、環境についての啓蒙活動だそうです。持続可能な社会の実現には、環境の保護・保全が大切であり、そうすることで、最終的には私たち人間にとってよい影響をもたらし、健康的な暮らしへと繋がっていくのだということを、より多くの人たちに知ってもらう――。そのために敷地内には、様々な学習施設が設けられています。学習施設では定期的にセミナーを開いたり、メルボルン近郊の学校や世界中からの学生を受け入れ、環境学習の場となっています。

汚染された土地を再生させることでカモノハシが戻ってきた

メリ川からメルボルン中心部を望む
メリ川からメルボルン中心部を望む(出典:wikipedia http://en.wikipedia.org/wiki/Merri_Creek

 CERESがある場所は、その昔、ブルーストーン採掘が行われた歴史から、汚染された土地でもあったため、ゴミの集積場となっていました。採掘による土壌汚染の上、ゴミによる二重汚染で、周辺住民にとっても厄介な場所だったのです。こうした酷い状況をなんとかしようと地域の役所に交渉。環境回復を前提に無償で借り受けることから、徐々に活動が始まったそうです。
 ゴミを取り除き、土壌改善を行い、今のようなオーガニック栽培が可能な土地へと再生させていくうちに、横を流れるメリ川も浄化され、きれいになっていきました。すると、たくさんの野鳥たちが集うようになり、さらには、汚染が酷かった時には、まったくみられなくなっていた野生のカモノハシが戻ってきたのだそうです。
 カモノハシは、水質の悪いところでは生息できません。オーストラリア国内の東南部のみに生息するカモノハシですが、その生息域は環境汚染により、年々狭められているのが現状です。ですから、メルボルンの中心部にほど近い住宅街で、野生のカモノハシが棲める場所というのは本当に貴重。もともとは、人間の快適な生活のために始めた環境回復の取り組みが、野生動物の回帰へと繋がった好例といえそうです。
 人間にとって住みやすい環境は、野生動物にとっても棲みやすい環境であるということを再認識させてくれるCERESの活動。この土地は、現在も自治体が無償貸与して、その活動を支えています。また、CERESの環境学習の取り組みは、活動資金を賄う上で、大きく貢献しているそうです。講習会やセミナーなどのエデュケーション活動で得た収益を環境保護・保全へと還元する成功事例としても、大変興味深いと思います。

オーストラリアの固有種カモノハシ
オーストラリアの固有種カモノハシ(出典:オーストラリア国立科学財団 http://www.nsf.gov/

メリ川にカモノハシの営巣地が見つかったことを知らせる地元紙のウェブ版
メリ川にカモノハシの営巣地が見つかったことを知らせる地元紙のウェブ版(※現在、記事は閲覧できません)


注釈

【1】パーマカルチャー
 1970年代にオーストラリア南部のタスマニア島で生まれたパーマネント(permanent)とアグリカルチャー(agriculture)を組み合わせた造語で、自然の生態系を参考にした持続可能な農業や建築システムを取り入れた、社会や暮らしのデザイン概念。

このレポートは役に立ちましたか?→

役に立った

役に立った:10

前のページへ戻る