氷上にどこまでもつづく地平線。白夜に舞うノーザン・ライツ(オーロラ)。ノーザン・ライツを背景に、氷上を駆け抜けていくスノーモービル。手はかじかみ、凍てつく風によって、まつ毛に小さな氷柱が連なります。氷柱ごしから氷上に目をやると、犬ぞり用の屈強な犬たち(いまでは観光目的に飼育されることが多い)が体をまるめ、寒さをしのぐ。軒下では白い息を吐き、体を震わせながら談笑する人たち…。
場所によっても異なりますが、カナダ極北地方の冬は、氷点下20?40度になります。短い夏とは一変する極北地方の冬景色。極北の景観は美しく、幻想的です。極北地帯を舞台とした多くの著作でも紹介されているように、それは人びとを魅了するものです。ですが、その美しい雪氷景色に人間の営みが覆われているのも事実です。
前回、「極北の水事情」に関して、レポートを書きました。では、人間の営みによって生じた汚水とゴミは果たしてどこにいくのでしょうか。小さな村では、使用済みの汚水は各家庭に設置されたタンクに一度貯水されます。その汚水を汲み取るため、汚水車が各家庭を回ります。汚水車は丘沿いにある寂しげな一本道を走っていき、小高い丘に囲まれ、海に面したところにある、汚水放流池に到着します。村からの距離は1キロほど。汚水放流池には、一本の黒いパイプがつながっており、汚水はそこから池に流されます。近づくと鼻につくにおい。放流池といっても、コンクリートに囲われた立派なものではなく、自然地形(岩など)を利用したものです。長年の営みが蓄積されているので、池というよりも、黒くどんよりとした湖のようになっています。
放流池から1.5キロほど歩いたところに、ゴミ捨て場があります。各家庭で出たゴミはここに集約されます。地形的にここは陸の突端で、文字通り小高い丘と海に囲まれています。小高い丘にはカモメが数10羽も居並び、不気味な声で大合唱。不気味な声を聞きながら、ゴミ捨て場を探索すると、ありとあらゆるものが目につきます。使い古された重機類に車、スノーモービル、大型冷蔵庫に洗濯機、ポテトチップスの袋にジュースの空き缶などの家庭ゴミ…。汚水放流地もゴミ捨て場も海に面していることから、おそらく海にも垂れ流され、生態系にも少なからず影響がある―推測の域をでませんが―、と言ってもいいかもしれません。
以前、南極観測隊員として南極に行ったことのある人に話を伺ったところ、南極でも同様の問題を抱えています。南極の場合、一昔前まではゴミが山積していたようなのですが、たまったゴミを船で持ち帰ることにより、だいぶゴミ問題は解消されているようです。ですが、抜本的な解決策には至っていません。生活区域とは少々異なりますが、エベレストなどもゴミ問題が深刻なのは報道で知られている通りです。
ヌナブト準州の州都イカルイトは2001年の国勢調査によると人口は5236人、2006年には6184人になっており、18.1パーセント人口が増加しています。高い出生率も相まって、カナダの他州に比べて、ヌナブト準州の人口は年々増加傾向にあります。当然、人口が増えれば、ゴミも生活排水も増えます。極北地帯に限らず、交通の便が悪い閉ざされた地域ではこのゴミ、汚水処理問題は世界共通の課題です。個人個人がゴミを減らすことはもちろんですが、処理をどのようにおこなっていくか、今後の課題です。
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