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「ドイツ市民の食と暮らしの安全づくり」バックナンバー

0052013.04.02UP母親たちによる情報誌『放射線リスト』と『ザ・ルーペ』(2)

測定値の情報公開

 エリザベートさんたちは毎週月曜日、市内に数店舗を持つチェーン店のスーパーで食品を20~30検体購入しました。一般の食卓を反映するこの“マーケットバスケット方式”について、「買い占め客のようで嫌でしたね」とエリザベートさんは笑います。
 測定結果は、『放射線リスト』と題するチラシを通じて、ほぼ毎週リアルタイムで公開されました。低ベクレル食品の選択を可能にするため、メーカー名も購入店も実名で載せました。このチラシは、会員に対して郵送されたほかに、毎週水曜日に、ベルリン中心街にある動物園駅(ツォーローギッシャー・ガルテン)近くの、第二次世界大戦の爆撃によって破壊された戦災のシンボル「カイザー・ヴィルヘルム教会」で夕方配られました。また、市内の自然食品店や薬局、自転車店が1店ずつ、店頭に置いてくれました。
 以下に2年弱で合計26回発行されたチラシから、高濃度のものを抜粋します。ベルリン市内の食品の汚染はほとんどが10ベクレル以下でしたが、たまに高い値が特定の食品から検出されました。

【表04-1】『放射線リスト』からの抜粋(1986年10月~1987年7月、数値の単位は、すべて「ベクレル/kg」)
1986年
10月17日 チョコレート 22
11月24日 【警告!】ミルクチョコレート 63、りんご(グラニースミス) 55、サクランボジャム 11、ヘーゼルナッツ 256,765、ブルーベリージャム 146、ミラノのサラミ 110
12月8日 黒海の紅茶 128~828、クリスマス食品(ノロジカ肉 235、鹿肉 95、牛肉 44、トルコ産乾燥イチジク 87、トルコ産ヘーゼルナッツ 649)
1987年
1月26日 ベビーフード12品中 34,35,56,182の汚染。
2月2日 パスタ 107
2月9日 牛乳 187~305、クリーム 211~293、ヘーゼルナッツ 211~293、バラの実 177
2月16日 スパゲティ 44
他の測定所の数値を紹介:ヘーゼルナッツ 940、トルコの茶 6267、クリームケーキ 38、牛乳 25
2月23日 ベビーフード 45
他の測定所の数値を紹介:ナッツチョコレート 32~114、フルーツヨーグルト 72,73
3月2日 牛乳 29、フランスのハーブティーで 53(メリッサ) ~4485(セージ)
3月23日 ヨーグルト 73、チーズ 132、スパゲティ 118、黒パン 32、モモ 47
3月30日 カッテージチーズ 27、牛乳 26
4月28日 芝生 43
5月11日 りんご 77、アイス 30
5月18日 発酵乳飲料 32
5月25日 フルーツ牛乳 28、りんご 47、ウサギ肉 23、マクドナルドハンバーガー 27
6月1日 キイチゴミルク 43、合いびき肉 26、去年の干し草(1986年6月) 751
6月15日 豚肉ステーキ 28、牛乳 46、リンゴジュース 35
7月22日 1986年産さくらんぼ 53
7月29日 さくらんぼのデザート 22、ラズベリー 44
他の測定所の数値:ライ麦 40

様々なアクション

 『放射線リスト』には測定結果に加え、エリザベートさんたち母親がその都度必要だと思われる注意や警告、提案を行っています。クリスマス前にはお菓子の売り上げが伸びることから、ミルクチョコレートやプラリネ(焙煎したナッツ類をカラメル化した砂糖で覆った製菓原料)等の高い汚染に警告を出しました。市内の自然食品店のネットワークの定期的な自主測定の様子や、後にご紹介するベルリンのもう一つの測定所の値も随時紹介しています。翌年6月以降は、概ね落ち着いて来た生鮮食品に代わり、保存食品に汚染が見られるようになったことから、ベルリン近郊産の小麦粉の検体の募集を行いました。
 また、エネルギーや原発を根本から考え直し、資源や環境を大事にするライフスタイルを提案し、イベントや勉強会の告知も行っています。

「リスト」から「ルーペ」へ

1988年12月/1989年1月号の「ザ・ルーペ」。クリスマス特集なのでルーペがサンタの帽子をかぶっています。
1988年12月/1989年1月号の「ザ・ルーペ」。クリスマス特集なのでルーペがサンタの帽子をかぶっています。

 放射能汚染が落ち着きつつある中で、エリザベートさんたちは食の安全を総合的に監視する活動に移行します。1987年4月にはグループの体制も再編成し、名前も「自ら測る親たち協会」(Eltern selber messen e.V.)と変更、放射線濃度と化学物質(硝酸塩)の測定値をまとめて、2ヶ月に1回、小冊子『ザ・ルーペ』として発行し始めました。“汚染された食品は避けうるリスク”の副題に示される通り、自分と家族が汚染食品のリスクを総合的に管理・軽減できるようになることを目的としています。
 はがき大のハンディな『ザ・ルーペ』には、主に保存・加工食品である缶詰、瓶詰、飲料、乾燥食品などの測定結果が、製造所固有番号と賞味期限と共に掲載されており、日々の買い物で活用されました。放射線濃度が10ベクレル/kg以下、硝酸塩が10mg/kg以下の商品には、識別しやすいようにりんごのマークがつけられました。これに対し、一部のメーカーから「風評被害だ」と苦情も来ましたが、消費者の権利としての測定を毅然と主張することで、じきに消えていったそうです。

市民の食卓に寄り添う

 チェルノブイリ事故の3年後には、淡水魚、野生の獣肉、野生のキノコを例外として、ドイツの生鮮食品の汚染は落ち着きました。他方、保存食品にはかなりの汚染が残り続けます。『ザ・ルーペ』の1988年のクリスマス特集には、クリスマスケーキやお菓子に29ベクレル/kg、ヘーゼルナッツチョコのプラリネに69ベクレル/kgの汚染が記録されています。栗やナッツ、ドライフルーツは放射性物質を取り込みやすい上に、保存が利き、また他の食品の加工によく使われるので、結果として、これらを原料とする食品の汚染が長く続きました。チョコレート製品の汚染が高かったのも原料にナッツなどが含まれるせいかもしれません。
 季節ごとの消費者の嗜好を反映した測定は、市民測定所ならではと言えます。

公的測定所との補完関係

 この時期、行政の測定は当初と変わらず生鮮品に特化し、「汚染は検出されないほど低くなった」と安全宣言を出していました。
 ベルリンの公的測定所でも市民の持ちこみによる測定は可能でしたし、また一月約2,500サンプルの測定結果の一覧は新聞(ベルリンの地方紙Der Tagesspiegel)で毎日公開され、統計的な把握としては可能でした。しかしこれらは出荷前のサンプル検査のために、流通品それ自体の値を示すものではありません。また『放射線リスト』や『ザ・ルーペ』を店頭に置いてくれるお店を例外として、一般の大手スーパーなど流通サイドは測定には積極的ではありませんでした。
 『放射線リスト」そして『ザ・ルーペ』は、汚染の推移を的確に把握しながら、測定対象を変えていきました。そしてまさに「今日、どこで、何を買うべきか」という市民のニーズに応えるという位置づけで、商品名からメーカー名、販売店名まで公表することで、公的測定所との補完関係を築いていったのです。

翻訳協力:石村喜代

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