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「続・現代狩猟生活」バックナンバー

0072016.05.31UP狩猟生活と職業

 これまでの連載6回では、狩猟にまつわる社会的なテーマについて扱ってきましたが、今回からは実際に狩猟生活を送るうえでの具体的な事柄について紹介していきます。

狩猟は職業にできるか

 近年、シカ・イノシシなどの野生鳥獣の増加により、有害鳥獣駆除・管理捕獲の必要性が高まり、その報奨金なども増額される傾向にあります。また、狩猟によって捕獲した獲物の肉を食べることもジビエとして広く認知されつつあり、一般のレストランや食堂などで提供されることも増えています。
 そういった状況を受け、狩猟を職業にして、それだけでやっていこうという人も徐々に出てきています。ただ、野生動物が相手の営みだけになかなか誰でも安定的な収入が得られるというものではありません。また、国の委託を受けて管理捕獲を行う会社の社員や鳥獣対策担当の公務員として、実際に鳥獣の捕獲に携わるという職業もありますが、その人数には限りがあります。
 現代の日本で狩猟を行う場合、やはり、ほとんどの人は現金収入を得る別の仕事をしながら、その合間に猟をしているというのが現状です。

狩猟と仕事との兼ね合い

わな猟では、獲物がいつ獲れるかわからない。
わな猟では、獲物がいつ獲れるかわからない。

 仕事をしながら猟をする場合、やりやすいのは銃による狩猟です。銃による狩猟は獲物が獲れても獲れなくても、基本的には1日で狩猟行為が完結するので、平日が仕事で土日が休みというサラリーマンの方でも大丈夫です。銃による狩猟には、猟犬を使ってグループで行う追い山猟、単独で行う流し猟や忍び猟などがあります。また、カモ、キジ、ヤマドリなどを狙う空気銃猟などもあり、バリエーションも豊富です。
 一方、私のようにわな猟をやろうとすると、普通に仕事をしているとなかなか大変です。わな猟の場合は、わなを仕掛けたら必ず毎日見回りに行かないといけないので、狩猟行為が1日で完結しません。見回りを怠ると、せっかく獲物が獲れていても死んでしまっている可能性があります。その場合、血抜きもできず腐敗も始まっており、もはや食肉としては利用できません。また、獲物がいつ獲れるかわからないので、予定も立てにくく、翌日に朝早くから仕事があっても、獲物が獲れたら夜中まで解体作業をせざるを得ないということもしばしばあります。
 私が行っているのは、山の中のけもの道にわなを仕掛ける“くくりわな”猟ですが、農地のそばや山際に設置することの多い、金属性の檻を用いる“箱わな”猟の方が見回りにかかる時間は少なくて済みます。また、設置場所が一目瞭然な箱わなはグループで見回りを分担するのにも適しています。

狩猟生活に向いている職業と実際の暮らし

解体作業は深夜までかかることも。
解体作業は深夜までかかることも。

自分で食べる肉を自分で調達する楽しみ。
自分で食べる肉を自分で調達する楽しみ。

 銃猟・わな猟問わず、狩猟がやりやすい職業は、自営業など、時間を自分で調整できる仕事です。実際に、私が入っている猟友会でも農家などを中心に自営業の人は多いです。また、フリーのライターやデザイナーなど、自宅で好きな時間に仕事ができるような職業も狩猟との相性はよいです。他には、朝が少々早くても明るいうちに仕事が終わる職業なども、明るいうちに山に入れるという点では、狩猟に向いていると言えます。
 通常の会社でもワークシェアリングなどを積極的に取り入れているところもよいです。私の場合は、これに該当し、運送会社で週4日勤務で働きながらの狩猟生活です。また、有給休暇が取りやすいかどうかも重要です。私は毎年、狩猟の解禁日から数日間は有給休暇を取らせてもらっています。

 例えば、猟期中の私の1週間はこんな感じです。

 月曜日 出勤日 夕方から山の見回り。ヘッドライト使用。獲物かかっておらず。
 火曜日 出勤日 夜に用事があったので、出勤前の早朝に見回り。ヘッドライト使用。獲物なし。
 水曜日 休み  朝から見回り。獲物がかかっていないことを確認後、わなの増設。気になっている別の山の様子も見に行く。
 木曜日 出勤日 夕方から山の見回り。ヘッドライト使用。イノシシ1頭捕獲。夜のうちにトドメ刺し・血抜き・搬出・内臓出し・冷却を済ませる。深夜作業終了。
 金曜日 出勤日 早朝から見回り。ヘッドライト使用。獲物なし。夕方からイノシシの解体。深夜作業終了。
 土曜日 休み  朝から解体作業の片付け後に山の見回り。シカ1頭捕獲。トドメ刺し・血抜き・搬出・内臓出し・冷却。夕方から職場関連の飲み会。
 日曜日 休み  早朝から見回り。獲物なし。朝から一日子どもの保育園の行事。夕方からシカの解体。深夜作業終了。

 はっきり言って、結構ハードです。ただ、私は有害駆除など猟期外の活動をほとんどしていないので、猟をするのは、猟期の4ヶ月(京都はシカ・イノシシだけ4ヶ月で他は3ヶ月)だけです。更に言うと、自分が獲りたい分の獲物が獲れたら満足なので、猟期の終わりまでしっかり猟をすることはあまりないです。例えば2016年度の猟期は11月15日に解禁してから、ちゃんと猟をしていたのは2ヶ月間だけでした。この期間で良い型のイノシシを2頭とシカを5頭獲れたので、1年分のお肉は十分手に入りました。
 こう考えれば、週5日勤務の普通のサラリーマンでもやれないことはないのではとも思います。冬の特別な営みとして、家族の1年分のお肉を手に入れるため、2ヶ月間だけ気合を入れて頑張るというのもなかなかよいのではないでしょうか。

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