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「続・現代狩猟生活」バックナンバー

0062016.03.08UP原発事故は狩猟生活に何をもたらしたか

森林が除染対象外に!?

東京電力福島第一原発事故の影響は、街だけでなく森の奥深くにまで及んでいる。写真は、H23.3.16撮影の福島第一原発3・4号機周辺の状況(出典:東京電力)
東京電力福島第一原発事故の影響は、街だけでなく森の奥深くにまで及んでいる。写真は、H23.3.16撮影の福島第一原発3・4号機周辺の状況(出典:東京電力)

 昨年の12月、環境省は、東京電力福島第1原発事故に伴う福島県内の除染作業について、「生活圏から離れ、日常的に人が立ち入らない大部分の森林は除染を行わない」という方針を表明しました。具体的には、キャンプ場や遊歩道、キノコ栽培地などを除いて、住宅などから20m以上離れた森林を除染対象としないということです。
 福島県では当然反発が起きていて、まず林業関係者からの批判が相次いでいます。森林がまさに仕事場である林業者にとっては切実な問題です。しかし、これは森で働いている人だけの問題ではなく、森林に関わる暮らし方を行っているすべての人に関係する問題です。各方面からの批判を受け、一部「里山」エリアも除染の対象とする方向での見直しも検討されているとの報もありますが、国が人々の「生活圏」を一旦はたかだか住宅から20m程度だと認定したということの意味を考える必要があるのではないでしょうか。

狩猟生活と放射性物質

福島県における種類別狩猟者登録数の推移(H10~H25)(出典:福島県)
福島県における種類別狩猟者登録数の推移(H10~H25)(出典:福島県)

 狩猟者という立場からこの問題を考えてみても、私たちのような山と関わる暮らしを営む者の存在は無視されているように感じます。東北の多くの地域では、森の野生鳥獣の肉からいまだに放射性物質が検出されています。特にイノシシ肉は、摂取および出荷制限が依然として多くの自治体で続いています(摂取制限まで出ているのは福島県の一部のみ)。エサや飼育環境を改善することで、家畜の肉からは放射性物質が検出されることはまずなくなりましたが、除染されない森林で暮らすイノシシなどの野生鳥獣は、まだまだ汚染されています。
 森の中では、イノシシが食べ物を探して、そこら中の地面をほじくり返しています。彼らの大好物はドングリで、落ち葉に埋もれたものでも優れた嗅覚で見つけ出します。また、腐葉土の中のミミズなんかも大好物です。こういったイノシシの暮らし方は、放射性物質を濃縮しやすいと言われています。
 東北地方では、放射性物質を気にして狩猟をやめた人も出てきています。食べられないなら獲る意味が無いというわけです。これまで喜んで食べてくれていた子どもや孫から「そんな危ないイノシシ肉はもう食べない」と言われた猟師の話も耳にしました。  野生鳥獣以外でも、山菜、キノコ、渓流魚などの森林に依拠する食べ物からも高い数値が出ていて、豊かな狩猟採集文化を持っていた東北地方でその伝統や技術の継続が難しい状況になってきています。ただでさえ全国的に減少傾向にある猟師ですが、これらの地域では減少ペースが加速しています。
 放射性セシウムの半減期が30年であることを考えると、森林の除染を行わないということは、現在高い数値が出ている地域はかなり長期にわたって今のような状況が続くということを意味します。

チェルノブイリの教訓

 30年前に起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故の際には、ソ連だけでなく近隣諸国のカリブーやトナカイ、イノシシも被曝したそうです。現在でもチェルノブイリから1500キロ離れたドイツでさえ、同国の基準値を超えるイノシシが多数捕獲され、廃棄処分となっています。私が暮らす京都は事故を起こした原発から、540キロしか離れていません。風向きによっては、私が獲るシカやイノシシが放射能に汚染される可能性も十分あったということです。
 チェルノブイリ事故の影響を受けた近隣各国では、汚染された野生鳥獣の肉について様々な対処を行っています。ドイツでは基準値以上のイノシシを獲った場合、行政が狩猟者に補償してくれる制度があります。スウェーデンなどでは、トナカイ・へラジカなどの野生動物の肉を普通の食品の五倍の基準値に設定しています。これは野生鳥獣の肉は頻繁に食卓に上らないというのが理由です。ただ、猟師や先住民族など食べる頻度の高い人たちには、リスクに関する情報を提供した上で自分たちで判断してもらっているとのことです。森林の除染が行われないのであれば、日本でも近い将来、こういった対処法を考えないといけなくなるのかもしれません。
 チェルノブイリでは人間の活動が著しく減少した立入制限区域内に、広大な「自然の楽園」ができ、豊かな生態系が現れているというレポートもあります。ただ、オオカミという捕食動物を失った日本の生態系ではそううまくは行かないでしょう。人の立ち入りが制限され狩猟が行われなくなった地域では、イノシシはすでに極端に増えています。野生化した家畜の豚とイノシシの混血による自然界の遺伝子汚染も危惧されています。有害駆除も行われていますが、汚染の数値の高い個体の捕獲後の処理の問題もあり、なかなかうまく行っていないのが現状です。

森林が生活圏でなくなるという意味

人間と森との関わりは今後どうなっていくのだろうか。
人間と森との関わりは今後どうなっていくのだろうか。

 このように森林が汚染されたままになるということは、狩猟者にとっては切実な問題ですが、一方で、住宅から森林に20mも入ったら、もはやそこは「人間の生活圏」ではなくなってしまっているという現実も、狩猟者ゆえに感じています。放射性物質に汚染されたわけでもない京都の森においても、かつて薪炭林として活用された里山林は放置されています。コナラやクヌギは大木化し、たくさんのどんぐりを実らせ、それを目当てにイノシシなどの野生動物が住宅地のすぐ裏手まで跋扈し、野生の王国と化しているのが現状です。管理されなくなったスギやヒノキの植林地も目に付きます。
 こういった森から恵みを受け取る暮らしの衰退が、結果として国による「森林は生活圏ではない」という定義を引き出してしまったとも言えます。そして、それはさらにこういった暮らし方に対してのダメージとして返ってきます。野生鳥獣の肉だけではありません。放射性物質の数値の高い森林においては、そこの木を薪にすることもその灰を畑に撒くことすらできません。
 放射性物質は、森林・土壌、そこにつながる川や湖沼、そして自由に移動する様々な生き物たちという生態系の豊かなつながりと寄り添って暮らそうとすればするほど循環します。原子力発電所自体、森林に依拠しない暮らしの代表のようなシステムですが、今回の森林除染に関する発表は、原子力発電所に再度依拠し始めた私たちの暮らしの現状をある意味象徴するようなものであったとも言えるかもしれません。

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このレポートへの感想

10年前宮城県の中山間地に移住し楽しく暮らしていました。5年前、夢が破られました。山菜やキノコを探し食べる楽しみが消えました。おまけに山野ばかりでなく田畑や庭ももイノシシの楽園と化しました。
(2016.03.08)

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