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「続・現代狩猟生活」バックナンバー

0042015.06.16UPジビエは日本に定着するか? 獣肉利用の現状

日本中であふれるシカやイノシシの肉

 日本では一部の地域を除き、猟期は11月15日から2月15日までとなっています【1】。現在は禁猟期間なので、僕は業務用冷凍庫に保存してある獲物の肉を少しずつ利用する日々です。今期はイノシシ6頭、シカ10頭の猟果だったので、1年を通して家族や友人と分けあって利用するのに十分な肉がストックしてあります。
 しかし、最近はこういった猟期だけの狩猟をしている猟師は少数派になりつつあります。鳥獣害の増加を受け、年間を通して有害鳥獣駆除による捕獲が行われているのが一般的になってきています。「シカやイノシシの肉をもらったんだけど、どうやって食べたらいいんやろう?」などと聞かれることもずいぶん増えました。
 それもそのはずです。全国で捕獲されるシカやイノシシの捕獲数は以前と比べると格段に増加しているからです。僕が猟を始めたのは2001年ですが、その当時の全国での捕獲数(狩猟と有害捕獲等の合算)を見ると、シカは14万1千頭、イノシシは18万4千頭ですが、最新のデータ(2012年)では、シカが46万6千頭、イノシシが42万6千頭となっており、わずか10年程度で数倍にも増えています。さらに10年遡った1990年のデータを見てみると、シカが4万2千頭、イノシシが7万頭でした。この何十年かでいかに急激に捕獲頭数が増えたか、わかるでしょう。
 これだけの数が捕獲されるようになっているのだから、その肉が日本中であふれているのは当然です。近頃は狩猟で捕獲した野生鳥獣やその肉を指すジビエという言葉もすっかり定着しました。また、自治体レベルでもこれらの獣肉を有効利用しようという取り組みが活発です。地域おこしのイベントでは、シカ肉ハンバーガーや串かつ、イノシシ汁などの獣肉料理を目にしないことはないというくらいメジャーですし、学校給食での利用なども始まっています。
 ただ、これだけ目立っていても、実際に捕獲された獲物の肉がしっかり食べられているかというとそうではありません。狩猟により捕獲された獲物の肉は猟師が有効活用することが多いのですが、有害駆除で捕獲された獲物の肉は、その大半がいまだ廃棄物として焼却・埋設処分されています。急激な捕獲数の増加に対して、それを流通させる仕組みの整備や有効利用の方法の定着がまだまだ追い付いていないというのが実情です。

獣肉利用の現在

 最近は各地で獣肉処理場【2】の建設が相次いでいます。個人経営のものから自治体による大掛かりなものまで様々です。自治体レベルで特産品にしようという取り組みも増えています。島根県美郷町の「おおち山くじら」などはその先駆けとして有名ですし、北海道のエゾシカ肉は道庁をあげてその利活用に取り組んでいます。また、ペットフードへの加工などへも利用が広がっています。
 こうした状況を受け、各地で獣肉処理の仕組みも整備されてきています。獣肉利用の一つの問題点として、獲った猟師によって捕獲後の処理の仕方に大きなバラツキが見られる点があげられます。基本的には丁寧に処理する人が多いのですが、なかには血抜きも不十分で毛や土などが肉に少々付いても全然気にしないという人がいたのも事実です。
 近年は獣肉処理のマニュアルを作成する自治体も増えてきました。その先駆けとして有名な北海道庁の「エゾシカ衛生処理マニュアル」も今年10年ぶりに改訂されました。興味のある人は北海道庁のホームページからダウンロードが可能です。これらのマニュアルには、捕獲・運搬時の注意事項から食肉処理の作業工程、加工・販売時の衛生管理【3】まで細かく解説されています。

内臓を取り出した後のイノシシ
内臓を取り出した後のイノシシ

肉に汚れがつかないように丁寧に皮を剥ぐ
肉に汚れがつかないように丁寧に皮を剥ぐ


背割りという工程後、消毒した解体テーブルで精肉にする
背割りという工程後、消毒した解体テーブルで精肉にする

ブロックごとに分けた肉は部位名、捕獲日時などを書いて冷凍保存
ブロックごとに分けた肉は部位名、捕獲日時などを書いて冷凍保存

脂ののったイノシシ肉は焼き肉にしても美味しい
脂ののったイノシシ肉は焼き肉にしても美味しい

獣肉利用の課題と今後

 こうしてみると、日本における獣肉利用は徐々に状況が整いつつあるのは間違いありません。ただ、流通の仕組みの整備以外にも様々な課題があります。
 例えば、猟師の食文化との兼ね合いです。代表的なのはシカ肉の生食です。近年は牛や豚など家畜の肉や内臓の生食用の提供が禁止されたことなどもあり、注目が集まるようになってきました。過去には、シカ肉によるE型肝炎の発症例も何件か報告されており、住肉胞子虫という寄生虫がかなりの割合で存在することもわかってきています(ただしシカは他の動物と比較するとE型肝炎の罹患率はかなり低い)。猟師の間でもだいぶ生食は減りましたが、それでもまだまだ「鹿刺し」がシカの代表的な食べ方のひとつであるのは現実です。安易な一般への提供は問題ですが、家畜の肉と違って猟師の自家消費まで規制できるかというとなかなか難しく、今後議論を呼ぶ可能性もあります【4】
 また、野生鳥獣肉は家畜の肉と違い、安定供給の面での不安が常にあります。現状はシカやイノシシを筆頭に捕獲数が増えているため問題ないように思えますが、有害駆除の報奨金の増額などにより捕獲数が頭打ちになっている地域もあります。今後、想定された捕獲数が常に確保できるという保障はありません。捕獲以外でも豪雪などの気象条件などで生息数を急激に減らすことがあるのが野生動物です。また、2011年の福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の拡散で、獣肉の出荷が制限されている地域もあります。家畜の肉は飼育環境や餌を改善することにより放射性物質を減らすことができますが、野生動物ではコントロールできません。福島県では、実際に閉鎖に追い込まれた獣肉処理施設もあります。

 日本の獣肉利用の今後を考えると、やはり野生動物の生息数の安定的な管理や捕獲者・処理施設の従業員の労働・雇用環境も含めた持続可能な仕組みづくりが課題であると言えます。

用語説明

【1】狩猟期間
 近年はシカやイノシシの生息数の増加を受け、この2種に限り猟期を延長している都道府県も増えています。僕の暮らす京都でもシカとイノシシだけは3月15日まで獲ってよいことになっています。
【2】獣肉処理場
 狩猟で獲った獲物の解体自体は、牛や豚などの家畜と異なり屠畜場などで行う必要はありません。猟師が各自の家で解体して食肉利用するのは当然OKです。ただ、商品として加工・販売しようとすると、「食品衛生法」に基づいた「食肉処理業」などの許可を得る必要があります。
【3】野生鳥獣の衛生管理
 昨年、厚生省でも各方面の有識者で構成される「野生鳥獣肉の衛生管理に関する検討会」が4回に渡って開催され、「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」が作成されています。
【4】食肉とウイルスや寄生虫の問題
 よく誤解されますが、ウイルスや細菌、寄生虫の問題は野生鳥獣だけのものではありません。家畜の豚も多くがE型肝炎に罹患しており、馬肉にも住肉胞子虫は存在します。野生鳥獣の肉だから危険だというのは間違いであり、細菌やウィルスの危険性を考えるなら、食肉は全て加熱調理が大原則です。なお、寄生虫の多くは冷凍処理で死滅するとされているので、馬肉は生食での提供が可能になっています。

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このレポートへの感想

気になったことが一つ、飼育肉と野生獣肉が衛生管理上同程度だと受け取れる記事内容問題であろう。
宮崎県牛口蹄疫しょうけつを極めた折の種牛はじめとする大量殺処分、同じく西日本各地鳥インフルエンザ感染時殺処分努力はなんのための犠牲であったのか?”ジビエ”野生獣肉はここまで徹底されているのか?単にカタカナ雰囲気に乗せられているのではないか?野生動物を見て”殺し喰らう”ことばかり吹聴するのは問題であろう。私も某国立大学に籍を置いたが、試験で入学した。いやしくも国立大学入試を突破した者であるならば、かくのごとき”真理の学灯”毀損できないはずであろう。
(2016.11.09)

千松様
初めまして、私、福岡在住のN,Nふる里のさると申しまして地元福岡の有害鳥獣捕獲隊に所属しております、貴方様の続・現代狩猟生活を視て投稿させて頂きました、今年2月に熊本でジビエによる地域活性化を推進する(農林水産省主催)のシンポジウムに参加させて頂きました今回のテーマは野生鳥獣捕獲や食肉処理、流通ルートの開拓や魅力の発信などジビエの普及に向けた様々な取り組みの紹介が有り終わりに実際にジビエ料理の試食もしてきまし、私としても、70歳過ぎてますが残りの人生を折角の機会に鳥獣捕獲・食肉処理。流通業を視野に色々と模索しています、何卒今後共機会が御座いましたら意見交換などさせて頂けたら幸いに存じる次第です、今後共宜しくお願い致します。


(2016.04.28)

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