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「住んで知った世界遺産・小笠原のリアル」バックナンバー

0062015.07.14UP世界自然遺産登録後の小笠原は変わったか?

世界自然遺産登録後に変わった良いこと

ノヤギの駆除が終了したあと、2009年に村民限定で開催された兄島観察会に私(有川)が参加したときの写真。赤く見えるのは紅葉ではなく、駆除対象のリュウキュウマツが薬剤を注入されて枯れかけている様子。固有種が復活する横で死にゆく植物を見るのは、わかっていることとはいえ、やりきれない思いも感じる。
ノヤギの駆除が終了したあと、2009年に村民限定で開催された兄島観察会に私(有川)が参加したときの写真。赤く見えるのは紅葉ではなく、駆除対象のリュウキュウマツが薬剤を注入されて枯れかけている様子。固有種が復活する横で死にゆく植物を見るのは、わかっていることとはいえ、やりきれない思いも感じる。

 気がつけば、小笠原が世界自然遺産に登録されてもう4年以上が経ちました。最初に小笠原が世界遺産に登録されるかも? という話を聞いた6年前、私はあまり積極的に賛成という気持ちになりませんでした。登録されようがされまいが、小笠原が持つ自然の底力は変わらないと思っていたからです。
 しかし今は、登録されて良かったのかもと思っています。それは、かつて予算がないために大なたを振るえずに引き延ばされてきた外来種対策が、登録されたことによってきちんと事業化されるようになったからです。
 それでも問題は残ります。最新の科学的な見地から、最善の結果を出そうとして取り組まれた外来種対策が、思ったような結果にならないこともまた、多くあるからです。
 もちろん、第4回第5回の記事で書いたような、自然を回復するとば口を作ることができた取組もあります。ほかにも、父島に近い無人島、西島に生息していたクマネズミを根絶させたことで、固有種の鳥(ハシナガウグイス)が定着できた例や、父島のすぐ北にある無人島であり、小笠原の自然の核心部が残っている兄島で、ノヤギを根絶させたのち、ノヤギに食べられていた固有種の植物、コヘラナレンやウラジロコムラサキが回復してきたという例もあります。

計画上にはなかった意外な伏兵の登場

 しかし一方で、ノヤギの駆除が終わった兄島で、意外な伏兵が登場してきました。今まで兄島にはいなかった外来種が侵入していることが確認されたのです。それは、グリーンアノールです。
 兄島には父島ではほぼ絶滅、母島にわずかに息づいている固有の昆虫が今も多く生息しています。しかし、第2回で書いたように、父島や母島で固有昆虫が激減した原因の大半はグリーンアノールに食われたからです。兄島への侵入は、固有昆虫が壊滅的になることを意味しています。侵入が判明してからずっと、小笠原では侵入防止の柵を設置するなどして対策をしていますが、今も根絶には至っていません。
 さらに問題なのは、兄島でクマネズミが増え、兄島以外では絶滅してしまっている陸産貝類を食い荒らしていることです。クマネズミの駆除は世界遺産登録以前より行われていましたが、なかなか効果が出ず、駆除後に再確認されるのをくり返していました。そうした中、危機遺産への転落もあり得なくない事態に陥っているのが現状です。陸産貝類は、その多様な進化の過程が自然遺産に登録されたカギとなった生物だからです。

 外来種駆除の難しさはこの事例でも見ることができて、陸産貝類を守るために殺鼠剤を撒けばネズミだけではなく、固有種であり保護すべき対象となっているオガサワラオオコウモリも食べる可能性があります。また、殺鼠剤を食べたネズミを、やはり保護すべき対象のオガサワラノスリが捕食する可能性があり、この二次的な中毒がノスリに影響を与えるかどうかについて、現地の研究者が今も継続観測しています。外来種はすでに小笠原の自然の一部組み込まれている部分もあるため、単純にその種だけを駆除することが難しいのです。
 もちろん駆除は、どの種から先に行うのが最も影響が少ないか考慮した上で進められてはいますが、思った通りにならないこともまた多いのです。

人々の意識は明らかに変わってきた

 島自体の空気は20年前に比べたらずいぶん変わったと実感します。かつては島の中にも「この島には何もないから、テーマパークやゴルフ場を作って観光客を誘致しよう」という声がありました。しかし今は、「自然があってこその小笠原」という考えが定着したように思います。もちろん、その「自然」という言葉の中身は、人によっていろいろ異なると言うことはあるにしても。
 それぞれの人が思い浮かべる「自然」。それはある人には自分にとって癒やしや楽しみを与えてくれる海であり山であり風のことで、不快な昆虫や自分が好きな遊びに邪魔な地形や場所は含まれていなかったりします。「自然が好き」といったとき、遊びだけではなく、自分の経済や生活を脅かすものが小笠原固有の自然であった場合、それとどう対処していくのか? 今、小笠原はその命題に一人一人が向き合う時期に来ています。

人里に姿を見せるようになったアカガシラカラスバトは、今、猫との遭遇や窓ガラスへの衝突、交通事故、建物への迷い込みなどの問題にみまわれている。
人里に姿を見せるようになったアカガシラカラスバトは、今、猫との遭遇や窓ガラスへの衝突、交通事故、建物への迷い込みなどの問題にみまわれている。(画像をクリックするとPDFファイルが開きます)

船が出港するたびに、島の多くの人たちが港に訪れ、船を見送る。港を出た後はダイビングや釣りの船がおがさわら丸に併走しながら別れのあいさつをする。心温まる小笠原の恒例行事だ。
船が出港するたびに、島の多くの人たちが港に訪れ、船を見送る。港を出た後はダイビングや釣りの船がおがさわら丸に併走しながら別れのあいさつをする。心温まる小笠原の恒例行事だ。

船が出港するたびに、島の多くの人たちが港に訪れ、船を見送る。港を出た後はダイビングや釣りの船がおがさわら丸に併走しながら別れのあいさつをする。心温まる小笠原の恒例行事だ。

 小笠原はとても小さい島です。その中に、世界で小笠原にしかない自然と、それを利用して生きている人間が同居しています。アカガシラカラスバトの数が回復したのはすばらしいことなのですが、増加して以降、人間が暮らす場所の近くにハトがやってきて、建物にぶつかるバードストライク、道路で車にひかれる交通事故、人里で飼われているネコがハトを襲う【1】といった「人間の暮らしの範囲」で起こる事故が多発しています。
 小笠原では、今、車を運転するときにどうするか? 建物を建てるときに何に配慮するか? 自分が飼っている動物と野生動物の折り合いをどうつけるべきか? など、それぞれの生活の中で向き合い、考えなければならないことに直面するときが来たのです。でも、それらの問題を「小笠原らしい」やりかたで解決していくことができたら、それこそ世界初のすばらしい場所になれるはずなのです。

小笠原の特異な歴史・文化事情

 小笠原は歴史の特異さもあり、たとえば集落単位で土地をどう使うか、山をどう使うかという入会権のようなルールはありません。それは歴史が浅いこと、強制疎開で空白期間があったため、土地の所有が不明になり、今も農地法が適用されていないなど、独特の事情があるためです。それらの事情のために、昔からここに住んでいる人たちが持続させながら自然を利用するルールを作ってくることができませんでした。大半の住民の意識は都会人の感覚にかなり近いと思います。

 今までご紹介できませんでしたが、戦前から小笠原を知っている住民はまた別の自然観を持っています。
 1830年、初めての定住者となった欧米から島にやってきた人たちの子孫、島では欧米系島民と呼ばれていますが、その人たちは島をゼロから開拓してきた人たちの子孫です。欧米系の人々は、1945年の日本敗戦後、いったん強制移住させられたものの、米国統治となった小笠原に1946年に戻ってきています【2】
 欧米系の人々と、戦前から暮らしていた日本人たち(旧島民と呼ばれる)は、科学の助けもほとんど無い時代からこの台風銀座であり、絶海の孤島群である小笠原で生き抜く知恵を持っていました。
 そうした知恵は、人文系の研究者の調査などでは聞き取りされてきたものの、世界自然遺産に登録されるまでの過程に活かされる機会はほぼありませんでした。この点も、もったいない、残念という気がしてなりません。

夕暮れ時の涼しさを楽しむ島の人々。自然と共に生きるためにはどうすればよいのだろう?
夕暮れ時の涼しさを楽しむ島の人々。自然と共に生きるためにはどうすればよいのだろう?

 いろいろな意味で、小笠原は日本の島の中でも「新しい島」なのです。歴史や伝統、文化を持った多くの島が老練の知恵者だとしたら、小笠原はまだ30代ぐらいの青年ではないでしょうか。積み重ねてきた知恵はないけれど、これからみんなで作っていけるチャンスがある。だから、小笠原にしかないやり方やルールで、自然と人間が折り合って暮らせる世界が作れる可能性はどこよりもあるはずです。
 その世界の実現は、小笠原の当事者のみならず、小笠原に関わるすべての人の手にかかっています。
(終)


脚注

【1】小笠原における飼いネコ
 ネコの飼い主には室内で飼うことが推奨されているが、屋外と室内を行き来するネコが今も少数いる。
【2】小笠原への帰島
 欧米系の人々が終戦1年後に島に戻れたのは、日本国籍を持ちながらも外見が欧米風で、敗戦した日本では暮らしにくかったため、GHQに直訴して欧米系住民とその家族に限り帰島が認められたからです。欧米系以外の住民は返還まで島には戻れませんでした。その期間、実に23年です。

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このレポートへの感想

もうじき父島で都住改築する夫について行く準備中、有川さんのブログを見つけました。初めはリアルな生活が参考になると楽しんでいただけでしたが、この6回シリーズは、大変考えさせられました。元来、外来種が固有種を絶滅させて地球は進化してきた、という歴史に逆らっているんじゃないのかという考えもあるからです。だからこのまま弱い種は絶滅しろという訳ではありません。小笠原のような小空間ならまだ間に合うでしょう。ブラックバスもエチゼンクラゲも、増えすぎたら食べる。ホンビノスは船橋市の立派な特産品になりました。増えた野やぎは食べないのですか?薪用だったアカギは、また薪として使えば良いのでは?…なんて、部外者は安易に考えてしまいます。一番困る外来種は、ヒトです。増えすぎて食物連鎖から外れて一番迷惑なのは、ヒトなんです。ですが、生態系を守れるのもヒト、ですよね。猿の惑星3話だったか、近未来の地球にはヒトと猿以外は絶滅していて奴隷にしている(絶滅した犬の銅像が広場にありましたっけ)、あれを思い出してしまうのです。
とりとめなくて、すみません。
(2017.09.09)

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