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「住んで知った世界遺産・小笠原のリアル」バックナンバー

0042015.02.24UPアカガシラカラスバト、海鳥の姿が戻ってきた - その1

 小笠原が抱えている永遠の課題、外来種除去と世界自然遺産登録について書いてきた前回まで。少々暗めの話題になってしまったことをお詫びします。誤解しないでいただきたいのですが、外来種除去は小笠原にはどうしても必要なことです。前回まででは、そのやり方が急すぎたために人の気持ちがついてこられなかったということを書いてきました。
 ですが、もちろん取り組んだ成果が目に見える形で出てきている事例もあります。後半の3回は、世界自然遺産登録時から現在までに至る“希望”を感じる出来事を中心に書いていきたいと思います。

帰ってきた海鳥

1998年頃までは、母島・南崎で営巣するカツオドリがたくさん見られました(撮影:阿部知子)
1998年頃までは、母島・南崎で営巣するカツオドリがたくさん見られました(撮影:阿部知子)

 2014年夏。母島から待ちに待った知らせが関係者に報告されました。
 「南崎にカツオドリが飛来、営巣しています」。
 たぶん、電話でもメールでも、この知らせを聞いた人々は「おーー!」と歓声をあげたに違いありません。それは、長い間の苦労が報われた瞬間だったからです。
 小笠原・母島。中心となる父島から南に50キロ、住民は父島約2000人に対して約450人の人々が住んでいる島です。
 母島は父島とはまた少し異なる自然の特徴を持っていますが、その一つが「有人島でありながら海鳥が営巣する島」であること。その営巣地こそが南崎という島の南端にある岬だったのです。
 南崎の周囲には小さい無人島がいくつか点在し、それらの無人島と母島の南端部である南崎でオナガミズナギドリやカツオドリが営巣していました。両方とも海鳥で、少しの間岩場などで休憩することがあっても、基本的に海が棲みかです。卵を産み、ヒナを育てる間だけ、陸の上で過ごします。南島でもかつては4月から8月ぐらいまでの間、巣を作り卵を温め、ふ化した真っ白なヒナを育てるカツオドリの姿がたくさん見られていました。

自動撮影機が捉えた、自分より大きなカツオドリをくわえたネコの姿(提供:小笠原自然文化研究所)
自動撮影機が捉えた、自分より大きなカツオドリをくわえたネコの姿(提供:小笠原自然文化研究所)

 ところが、2005年頃から様子が変わってきました。ずっとカツオドリを観察し続けていた男性が、「どうも最近、カツオドリが南崎で営巣していないようだ」と気がついたのです。
 これを受けて、父島にある自然保護に関わるNPO法人が事実関係を調べ始めました。そうした中、自然好きな島の人から1枚の写真を見せられます。それは、南崎近くで鳥の羽部分が大量に積み重なっているものでした。食べる部分がない羽のところだけを残し、体は残っていないのです。
 「何かが鳥を襲っている」
 そう確信したNPOのメンバーは、営巣地の周辺に自動撮影カメラを設置しました。そしてある日、自動撮影機のデータの中に、写っているものがはっきりと見えました。それは、自分の体より大きなカツオドリをくわえているトラネコの姿でした。

海洋島の生きものと優秀すぎるハンター、ネコ

カラスバトに似ていますが、頭が赤く首の虹色が強いアカガシラカラスバト。絶滅が危惧されています。
カラスバトに似ていますが、頭が赤く首の虹色が強いアカガシラカラスバト。絶滅が危惧されています。

 実は、当時すでに小笠原ではノネコの問題に注目が集まっていました。もともと小笠原にはネコはいませんでした。人間と一緒にあとから島に入ってきた生き物です。そのため、小笠原の動物たちはネコをはじめとする天敵の存在を知らずに世代を重ねてきました。そのため非常に無防備でした。
 海鳥を襲うようになったネコたちは、おおもとは人間の元にいたネコです。避妊去勢をせずに室外飼いをしているうちに脱走して野良になったネコや、山に捨てられたらしきネコ、そしてその子孫が野生化して、鳥などの動物を食べ物として襲うようになったのです。
 襲われた鳥の中には、小笠原にしかいない固有亜種・アカガシラカラスバトという鳥もいました。大きさや形は本州にいるカラスバトとよく似ていますが、名前の通り頭が赤く、首の周りの虹色が大変美しいカラスバトです。このハトは昔から存在は知られていたものの、見たことがある人は大変少なく、2008年頃には推計40羽ぐらいしかいないのではないかと言われていました。
 いろいろな要素をつきつめていくと、数が減っている大きな要因として、このハトを襲っているだろうノネコの存在が浮かび上がってきたのです。

山の中のネコを1匹1匹捕獲しはじめる

 以前から、ノネコの捕獲は試みられてはいましたが、基本的に捕獲し、避妊去勢してまた放すという形でした。その中で、アカガシラカラスバトをなんとか復活させようと、島の人たちや、島外のハトに関わっている関係者たちが集まって国際ワークショップが行われました(注1)。以来、集落の周りだけではなく山の中のネコも対象として捕獲する動きがスタートし始めたのです。
 山の中に自動撮影カメラを設置し、ネコの多発ポイントをチェック。それに基づいて人力で山中まで捕獲かごを背負って持っていき、中にえさを仕掛けて帰ります。翌朝捕獲かごをチェックして、ネコがかかっていたらネコごとかごを背負って連れて帰る試みが続きました。
 こう書いてしまえば簡単に思えるかもしれませんが、山の中は道もないような場所で、かごを担いで崖をよじ登ったり降りたりするような場所も少なくありません。ネコが捕まっていたら、数キロの体重があるネコを入れたままのかごを担いでまた里まで下りてくるのです。

(注1) 2008年に父島で開催された「アカガシラカラスバト保全計画作り国際ワークショップ」のこと。
自動撮影機でチェックした山中のネコ多発ポイントに餌を仕掛け、捕獲カゴを設置。ネコが捕獲されたら、暴れないようブルーシートで覆い、背中に担いで山から下ろします。 自動撮影機でチェックした山中のネコ多発ポイントに餌を仕掛け、捕獲カゴを設置。ネコが捕獲されたら、暴れないようブルーシートで覆い、背中に担いで山から下ろします。 自動撮影機でチェックした山中のネコ多発ポイントに餌を仕掛け、捕獲カゴを設置。ネコが捕獲されたら、暴れないようブルーシートで覆い、背中に担いで山から下ろします。

自動撮影機でチェックした山中のネコ多発ポイントに餌を仕掛け、捕獲カゴを設置。ネコが捕獲されたら、暴れないようブルーシートで覆い、背中に担いで山から下ろします。


 これらの動きは村役場や都支庁、国の機関、NPO法人が関わって、「仕事」として実施する一面もありました。ただ、当初は少ない予算の中、日が昇る前の業務時間外にも持ち回りで担当し、山へ入っていったのは、「今、何とかしなければ!」という小笠原の自然を守るために関わった人々の熱い思いがあったことは間違いありません。
 ここで、もし捕獲されたネコがアカギやグリーンアノールのように息絶えさせられていたのだとすると、前回までに書いたような「正しいとわかっているけどやりきれない」気分はもっと深く島に漂ったでしょう。しかし、この動きに関しては、思いも掛けない強力な協力者の登場で、三方得とも言えるような安堵感と幸福感をもたらすことに成功したのです。 (この項続く)

(提供元が記されていない写真は筆者撮影)


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このレポートへの感想

野良猫の駆除ご苦労様です 自分は神奈川県海老名市に 住んで居ますが 東名高速道沿いに 外来生物が 住み着いて居ます 飼育する人の気持ちも分かりますが 責任ある飼育を求めます また 
丹沢周辺の ヤマヒルが 厚木市内に出現したとの
情報も有り 相模縦貫道が全線開通すると 高尾山 
秩父地方の生態系に 異変が起こる可能性が 有ります こちらも重要な問題ですが 声が立ち上がりません 心配性でしょうか 県の 野生動物保護センタには 傷ついた 稀少猛禽類が保護されて居ます
物流が活発になると そちらと同じ道を辿るのでしょうか 心配です  頑張って下さい
(2015.03.07)

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