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「住んで知った世界遺産・小笠原のリアル」バックナンバー

0022014.11.11UP外来種駆除、それが及ぼした影響

その壊れやすい自然を守るための試み

山の斜面の一部が灰色になっている。薬剤注入で故殺されたアカギの立ち枯れだ(2009.11.母島東台)
山の斜面の一部が灰色になっている。薬剤注入で故殺されたアカギの立ち枯れだ(2009.11.母島東台)

 島に住んでいた2010年冬、「あの山の東側が、アカギの薬注(薬剤注入)をしたところだよ」と、教えられて見上げたその先には、山の斜面の一部分だけ灰色になっている不思議な光景がありました。
 アカギ。それは小笠原の自然に大きな影響を与える特定外来生物として、駆除の対象になっている樹木でした。その灰色の空間が、木が死んだ跡だと知って見上げると、山が寒々しく見えました。
 外来種、それは自然遺産登録を目指す小笠原にとって、どうにも片付けなければならない問題でした。
 海洋島である小笠原は、そもそもが波で運ばれるか、風で飛んできたか、翼で飛んでくるしかたどり着く方法がない大洋の真ん中にあり、偶然たどり着いたものだけで構成された生態系は、いわば距離により隔離された空間の中で独自の進化を遂げていきました。その結果、たくさんの固有種を生み出し、世界でここにしかない生態系を作り上げたのです。
 激しい生存競争にさらされていないので、大陸などで生き抜くために性質を変え強くなった生物が入ってくるとたちまち駆逐されてしまいます。
 環境省は2006年にIUCNの有識者を招き小笠原の自然遺産の可能性について視察をしてもらっていますが、そのときも「外来生物対策が急務。同時に、進入経路についても対策を」と意見をもらっています。
 世界自然遺産登録では多くのケースで暫定リスト掲載後、1年で推薦書を提出、登録へという運びになるところ、小笠原の場合は推薦書を出す前に3年かけて外来生物対策を行い、2010年に登録を目指すことになりました(実際は2011年に推薦書提出~登録となったので、1年ずれています)。

なぜ、住民から自然遺産への動きは遠く感じたのか

 でも、島で暮らしている中での実感として、そうしたスケジュールは、地域連絡会議(観光協会や農協漁協など島の主立った組織で形成されている)に入っている人でも無ければ把握していなかったように思います。
 周知の徹底とか、住民意見の吸い上げって、本当に難しい。行政や関係者側は、3年というタイムスケジュールの中で可能な限りの結果を出そうと必死だったと思います。何か新しいことをするときには説明会が開かれましたし、外来種駆除に関するお知らせなどは頻繁に全戸配布されていましたが、たいがいは、すでに決まっている内容について一応説明をするという感じにしかならなかったようにも思います。
 そのために、一番肝心なことが登録への行程で抜け落ちたなあというのは、ぬぐいきれない気持ちです。

かつては立ち入り放題だったアカガシラカラスバトの繁殖地は、森林生態系保護地域となり、現在11~3月調査目的以外の立ち入りは禁止。その周辺はバッファゾーンとなり、入林許可証のある人間と同行して歩くことができる
かつては立ち入り放題だったアカガシラカラスバトの繁殖地は、森林生態系保護地域となり、現在11~3月調査目的以外の立ち入りは禁止。その周辺はバッファゾーンとなり、入林許可証のある人間と同行して歩くことができる

 登録に向けて行われたことは、外来種駆除のほかにも森林生態系保護地域の中で、無条件に人が立ち入ると自然が荒れてしまう場所を保護するために、利用ルートを設定し、それ以外の場所には入れなくする取り組みもありました。2008年に“指定ルート”ができるまでは、島の人も観光客も私有地以外のどこの山にも基本的には自由に立ち入ることができたため、一部では希少種・アカガシラカラスバトの営巣地に近い場所に繁殖シーズン中に人が入ってしまったり、繰り返し人が入ることで土がむき出しになってしまったりと、自然を荒らしてしまう行動が問題になっていました。
 だから、指定ルートを設定するのは仕方が無いことではあったのですが……。なんというか、「こういう理由があって、今の島の自然が好きだから、自分たちの方からこうしたい!」という住民が自主的に立ち上がるような感情を育てるまではいかない段階で物事が決まってしまった感があり……。
 住民の側には「一方的に規制された」という思いが澱のように淀んでたまってしまったような感じになってしまったのです。

どういう島にしたいか、住民がもし決めていたら…

 環境省、林野庁、東京都、小笠原村は研究者による「小笠原科学委員会」と討議しながら3年の間になにをどういう順番で駆除していくかなどの「管理計画」を作りました。小笠原の自然に特に悪影響を与えている13種について、排除の方法を作成しました。
 ターゲットとなった13種はアカギ、モクマオウ、ギンネム、タケ、キバンジロウ(植物)、ノヤギ、ノブタ、ノネコ、クマネズミ(ほ乳類)、グリーンアノール(は虫類)、オオヒキガエル、ウシガエル(両生類)、ニューギニアヤリガタリクウズムシ(扁形動物)ですが、これについても属島にしかいなかったウシガエルやノブタは見えない場所で行われていた駆除なので、知らない間に駆除が終わっていた感じでしたが、人の感情にいろんな意味で「揺れ」を生じさせたのはアカギ、ノヤギ、ノネコ、グリーンアノールだと思います。これらの生物は、人間が暮らす父島母島の中で非常に身近だったからです。
 たとえばアメリカから入り込んだトカゲ、グリーンアノールは、旺盛な食欲で小笠原固有の昆虫を食い尽くす寸前まで来ていました。しかしそうした情報が周知される前は、逆に「珍しいトカゲがいる」と、観光客にも人気だったし、子供にとっては本州でいうカナヘビみたいな感じで、いい遊び相手だったのです。
 周知徹底の結果、グリーンアノールは小笠原の自然にとって大変な影響を持つ“駆逐すべき存在”と変化し、人々の口の端に上るときも憎まれものとして語られるようになってしまいました。
 それはある意味、教育や周知の成果でもあるのですが、私はどうもここで一段階、心からみんなが納得するストーリーを作ることが抜け落ちてしまったように思います。

特定外来生物グリーンアノールは皮肉にもフロリダ半島ではブラウンアノールに捕食され激減されている(ブラウンアノールは日本には入っていない)
特定外来生物グリーンアノールは皮肉にもフロリダ半島ではブラウンアノールに捕食され激減されている(ブラウンアノールは日本には入っていない)

 ではどうすれば良かったのか? 私自身は、時間がかかったとしても島の人たちが「どんな島にしたいのか」について徹底的に話し合い、それを目標にしていくべきでは? と思っていました。
 小笠原は世界の財産だけど、やっぱりその島をどうしたいかを決めるのは住んでいる人たちではないでしょうか。そして、戦前からの島を知っている人や、返還前に米軍とともに島に暮らしていた人と、小笠原が好きで移り住んできた人が持っている「自然とのつきあい方」や「理解度」もまた、全然違います。 だからこそ、遺産登録という機会に、「10年後、100年後、どんな島にしたいか」を全員で(激論になっても)話し合うことがあっても良かったんじゃないかなぁ。
 それがなかったことが、島住民の熱の低さ、無関心さを作っていったような気がしてなりません。

アノール用粘着トラップはかの害虫粘着シートと同じ仕組み。アノールが登る木の幹に取り付けて随時交換する
アノール用粘着トラップはかの害虫粘着シートと同じ仕組み。アノールが登る木の幹に取り付けて随時交換する

アノール用粘着トラップはかの害虫粘着シートと同じ仕組み。アノールが登る木の幹に取り付けて随時交換する


(写真はすべて筆者撮影)

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このレポートへの感想

とても興味深い記事です。
世界遺産で湧く小笠原、でもその一方で、住民の戸惑いやどこか頭の上で飛び交うような急な変化があったんですね。
次回も期待しています。
(2014.11.14)

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