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「現代狩猟生活入門」バックナンバー

0122011.04.12UP狩猟を通して日本の山をみる

狩りを必要とする日本の山

鹿肉のタタキ
鹿肉のタタキ

 10年前に狩猟を始めた時、私は山についてほとんど何も知りませんでした。
 猟をするようになって最初に驚いたのは、イノシシやシカなど自分が獲物とする大型獣が、人間の生活圏のホントに近くにたくさん生息しているということ。民家のすぐ裏でも、たくさんの糞や足跡、泥跡【1】などを見つけることができました。

 最初の獲物はメスジカでした。仕掛けたワナにかかったシカを発見し、それにトドメをさす時いろいろなことを考えました。「野生で暮らしている動物をわざわざ殺して食べる必要はあるのか」「狩猟というのは残酷な行為ではないのか」。しかし、丁寧に解体し、友人たちとわけあって食べたその肉は、信じられないくらい美味しく感じ、それを手に入れるまでの自分の努力と労力を振り返りました。肉を食べるということの意味を一番考えた瞬間でもありました。

ぼたん鍋
ぼたん鍋

 ある程度、獲物が捕れるようになってくると考えたのは、1ヶ所の山で何頭くらい獲っていいのかということ。継続的に猟をするには、豊かな自然のもと対象となる獲物が増えすぎず、減りすぎず、適正な数を維持している必要があります。
 ただ、これに関しては杞憂に終りました。私が猟場とする山々ではシカが増えすぎて、私が捕獲する個体数くらいでは、ほとんど影響を与えないレベルになっています。人によりオオカミが絶滅させられ、人間以外に捕食者がいない現在の日本の生態系において、バランスの取れた自然を維持するための狩猟が大変重要な役割を持つのだと認識するようになりました。ただ、第10回で触れたように全国的に猟師の数は減り続けています。

人の手が入らなくなった日本の森林

 山に頻繁に入るようになって驚いたことは、針葉樹の植林地の多さです。間伐材をいただいて薪にしたり、獲物を解体する小屋を作ったりする過程で、日本の林業・森林の現状や歴史について教わり、放置された山林を多く目の当たりにしました。
 西日本の里山にコナラやクヌギが多いのは、かつての薪炭林の名残です。それが利用されなくなり、たくさんのドングリをつける大径木になりました。そして、ナラ枯れで枯死していく。これもまた「自然」なのかもしれませんが…。
 また、「山が荒れて食べ物がなく動物たちが里におりてきている」とよく言われますが、そんなに単純にくくれるものでもないとも思います。獲物を解体すると、十分に餌を食べているかどうかはわかりますし、胃の中身も確認します。
 山に人の手が入らなくなって、山の状況が変化してきていることは間違いないですが、それが動物たちに与える影響は多種多様【2】だと言えます。

けものみち
けものみち

広葉樹の森
広葉樹の森

山と持続的に関わる生活スタイルへ

山を歩く
山を歩く

 山は二つの理由でボロボロになっていっているのではないでしょうか。
 ひとつは、過度の植林や林道工事、ダム建設などで生態系が破壊されたまま放置されていること。もうひとつは、人間がこれまでの山との持続的関わりを放棄してしまったために、山の環境が変わり、野生動物の生態にも影響を与えているということ。
 山とかかわらず都会に住んでいる人間の「自然を守れ・野生動物を殺すな」という言葉には、説得力がありません。「エコ」という言葉や温暖化ストップなどという漠然とした話でお茶をにごすのではなく、豊かな自然がなくては自分たちの暮らしが立ちゆかなくなるというくらいの、生活スタイルの転換が必要な時期にさしかかっているのではないかと思います。

 海外の森林を伐採する一方で国内の膨大な植林地は放置。何万頭も駆除したシカは焼却・埋設処分し、その一方でシカ肉も含めて大量の食肉を輸入する。ダムで魚の遡上を堰き止め、養殖して放流する。こんなちぐはぐな状況を自然に対して課すのは、そろそろどうにかしなくてはいけないのではないでしょうか。

脚注

【1】泥跡
 イノシシやシカは山中の沢沿いなどにあるヌタ場と呼ばれる場所で泥浴びをする習性があり、その時に体についた泥が、けもの道沿いの木や葉っぱなどに付着します。
 それは縄張りを示すために意図的に擦り付ける場合もあれば、けもの道を通るときに勝手についてしまう場合もあります。これは足跡などと同様に獲物の行動を探るのに大変重要な痕跡の一つです。
【2】動物への多種多様な影響
 「山が荒れる」という言葉が「奥山の広葉樹林を伐採する」ことだけを指すのであれば、イノシシやクマなど木の実を主食とする動物が里の方へ出てくるという状況を生み出します。しかし「植林地が管理されなくなる」という意味であれば、あまり食べ物は関係なく、下草刈りがなされず、動物の隠れ家が増えることなどに問題が出てきます。
 また、「里山が放置される」ということを指すのであれば、人間の圧力が減り、緩衝地帯としての効果がなくなるということを意味し、それが結果として農地等への野生動物の侵入を招いていると言えます。これは、「植林地の管理がされないこと」による影響でもあります。
 里山の放置は、ドングリのなる木がたくさんある餌場を提供していることにもなります。また、シカやノウサギなどの草食動物は、山の木が伐採された跡地に若木や雑草がたくさん生えた方が食べ物は豊富になり、生息数は増えると考えられます。
 ノウサギは増えれば捕食者(キツネや猛禽類)が個体数調整を行いますが、シカの場合は人間以外に捕食者がいなくなってしまっています。シカが増えすぎた地域では、下草や笹薮などがなくなったり、茂みを好むイノシシや野鳥が減ったりします。

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このレポートへの感想

今の日本の野生動物(淡水魚を含む)野生態系はみるも無惨な様相を呈していることについては全く同感です。幼少の頃から山遊び、川遊びに興じ、自然学については一家言持たざる得ない立場から言わせてもらえば、本来、自然は如何なる甚大な外的ダメージを受けても時間の経過を要すれば、元の環境を取り戻す強い回復力を秘めている。しかし、1960年代から盛んに行われた経済活動(正確には経済活動の名を借りた税金の掻き回し活動)により、過疎化の進行とともに人間の手が入らなくなったはずの自然は元の豊かさを取り戻すことはない。その代表的な戦犯は①ダム②高速道路③過疎地域に網の目のように張り巡らされた林道④放置された人工林である。この四つの負の遺産さえなければ日本の自然は戦前以上の豊かさを取り戻していただろう。本来自然は長い年月の淘汰によって、その地域野自然環境に適した生態環境が整えられ、一時期に何らかの突発的な要因により偏った生態系が形成されたとしてもその清廉なる回復力により、其の地域独特の
生態系を再生する。其の回復を先に挙げた四つ悪玉たちが見事に阻害してしまう。少年時代、とっておきの渓流の淵にてご飯粒でヤマメ、カワムツ、アブラハヤを釣り尽くすまで釣ったが、一雨降れば、また眩いばかりの魚群に満たされた。古猟師の誰もが持つとっておきの猟場は猪、ウサギ、キジを獲っても獲っても、翌週には新たな山の住人で満たされた。ダムは渓流魚たちの自由な行き来を奪い、自然の個体数についての治癒力を減滅させ、湖底に山間の落ち葉からなる肥沃なエネルギーをただのヘドロとして無駄に蓄積する。管理されない人工林はわずかばかりの木漏れ日も地面に注がせず、山間の生物の多様性は失われ、ミミズすら見ることができなくなる。高速道路は野生動物の流動性を遮断し、自然循環から陸の孤島となった地域の動物の個体は近親交配が何代も繰り返され、免疫力、繁殖力が低下し、最悪の場合いは消滅してしまう。これら見せかけ、一時的に地方の活性化を狙ったがための負の遺産は数千年単位の自然崩壊を待たなければ元の手垢のつかない豊な自然を取り戻すことはできない。地方の活性化のために一時的、短絡的に行った浅はかな行為が結局はたいした公益も残せず、唯一の遺産であった純一なる自然をただ歪な姿にしただけであった。凡人である私の頭で考えられるせめてもの希望的処方を述べさせたいただけば、今後地域の活性のため、たとえ偽善的であろうと、名目的であろうと税金をかき回したいのであれば、四つの悪玉たちを、ダム、護岸を撤去し、人工林を自然林へ復元し、高速道路をすべて地下化し、林道をすべて埋め尽くすことで地域の雇用を確保していただきたい。

(2013.06.22)

高知県在住の田舎育ちの者(33歳)です。
只今、猟師免許の勉強中です。
誰も住んでいない田舎の家に戻ると、山は荒れ放題で、先祖が残してくれた、文旦・茶畑等も見るも無残な状態です。
自分が幼少で経験した事が、これからの子供たちが完全に経験できない時代が来るというのは複雑な気持ちでいっぱいです。
もっと田舎全体が閉鎖的にするのではなく、いつ来てもいい様に、田舎の良い生活を、毎日楽しめるような場所や情報を提供するべきだと思います。


(2012.06.27)

5年前から銃を所持し、鹿の狩猟をしています。
千松氏のレポートに感銘致しました。99%同感です。
田舎(新潟県)で生まれ、育ち、23歳で都会(兵庫県)に出てもう
40年、その間、日本の国土や人間の生活が急激に変化した事を
感じますし、危惧している今日この頃であります。

(2011.04.27)

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