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「自然を守る仕事」バックナンバー

0312020.01.07UP“自然体験の入り口”としての存在感を際立たせるために一人一人のお客様と日々向き合う-ホテルマン・井上晃一さん-

眼前に広がる弓ヶ浜の景観を眺めながら過ごす、くつろぎのひと時

井上晃一(いのうえこういち)さん

井上晃一(いのうえこういち)さん
1986年3月、埼玉県深谷市出身。33才。
大学を2年で中退して、群馬県嬬恋村に10か月ほど住み込んでキャベツ畑農家の手伝いをしたのち、東京環境工科専門学校の14期として入学。第15回で紹介した村上蕗子さんとは、同期として学んだ仲。
休暇村は、全国に37か所が開設されていて、全国を異動したりブロック内を異動したりする人もいるが、井上さんは現地採用職として、南伊豆一筋だ。地元出身の奥さんと所帯を持って子育てもしているので、今後もここ南伊豆で働き続ける予定でいる。。

 伊豆急下田駅からバスで20分ほど、伊豆を代表する海水浴場の一つ、弓ヶ浜が眼前に広がる好ロケーションの地に、休暇村南伊豆は立地している。全国37か所ある休暇村の中でも初期の頃に開設したうちの一つで、今年(2019年)ちょうど50周年を迎えた。

 そんな休暇村南伊豆のスタッフの一員として、日々宿泊客を迎え入れている井上晃一さんにとっても、今年はちょうど10年目の節目の年となった。

 「休暇村は、宿泊施設ですから、私自身もフロントに立ってチェックイン・チェックアウトの対応はもちろん、レストランでの配膳、お客様の送迎などの業務をしています。ただそれだけでなく、ご宿泊いただいたお客様に手軽な自然体験を楽しんでいただく「ふれあいプログラム」のマスターとして企画運営も担当しています。休暇村は、国立公園や国定公園の中という日本を代表する豊かな自然に恵まれたロケーションにあるのが特徴です。海や山など雄大な自然が広がる場所でくつろぎながら、地元の新鮮な食材を堪能し、のんびりと温泉につかって、とっておきの休日を過ごしていただける施設なのです」

休暇村ブランドの確立に向けて集まった全国の現場スタッフの一人として、意見出しに参加

「朝の散歩会」では砂浜を歩いて伊豆半島の魅力を案内

「朝の散歩会」では砂浜を歩いて伊豆半島の魅力を案内

 毎朝7時から所要時間約30分で近くの浜を歩く『朝の散歩会』は、1階フロント前に集合する自由参加プログラムで、宿泊客なら誰でも、予約なしに参加できる。専用のポールを使って運動効果を増強するフィットネスエクササイズの一種である「ノルディック・ウォーキング」として実施しているこの散歩会は、雄大な自然景観を“窓から眺めて”楽しむだけでなく、ちょっとした自然体験をセットにして旅を楽しんでもらうため、朝食前の腹ごなしとして、実際に浜に出て歩きながら自然を感じてもらうのがねらいだ。伊豆半島ジオパークの「弓ヶ浜」とその奥にある「逢ヶ浜」まで足を伸ばし、伊豆半島の地形・地質についての話も披露して参加者の興味を引きつつ、ともに過ごす30分間を豊かな時間へと演出するのが、井上さんの仕事だ。


「星空カフェ」で星座の案内をする

「星空カフェ」で星座の案内をする

 毎晩20時から21時には、『星空カフェ』と称して、コーヒーを飲みながら星空を眺めようというプログラムも提供している。7階の屋上テラスにイスを出して、夕食後のくつろぎの時間帯に、コーヒーに詳しい支配人が豆から選んで淹れるスペシャルティコーヒーを楽しんでもらう。コーヒーをきっかけにちょっと外に足を踏み出し、夜風に当たりながら、普段あまり気にしていないかもしれない星空を改めて眺めて、日常とは少し違った体験をしてもらう。簡単だが、宿泊客にとって満足度の高いプログラムになっている。

 「私たちが最も意識しているのは、自然体験の入り口を提供するということです。貝殻や浜で拾った石など自然物を使った工作、サーフィンやシーカヤックなど海のアクティビティなどちょっとした非日常の自然体験を楽しんでいただき、到着した時よりほんの少しでも自然を好きになってお帰りいただけるようにおもてなししています」


休暇村のブランドロゴマークとスローガン

休暇村のブランドロゴマークとスローガン

 休暇村を運営する一般財団法人休暇村協会では、ここ数年間で休暇村のブランド確立をめざした話し合いが本部を中心に重ねられてきたという。「休暇村」の「休」と「村」の間にハンモックを張ったブランドロゴや、“自然にときめくリゾート”というメインスローガン、また現場スタッフとして取るべき行動指針なども決まった。ユニフォームもこの春から新たなデザインのものに一新された。

 その過程で、全国各地の現場スタッフが集められて、意見交換をする場も設けられ、井上さんもその中に加わって意見を出してきた。

「2~3年前のことでしたが、ちょうど行動指針を決める話し合いの場にブロック代表として選ばれて、参加することができました。その前の会合には私は参加していなかったのですが、スローガンについての話し合いがされ、そこで出た意見を受けて本部で決定するというプロセスがありました。その次の段階として実施された、行動指針の話し合いに、私を含めてブロックごとに2~3人ずつ現場スタッフが集まって、案を出し合ったのです。そこで出た意見を踏まえて本部スタッフの方で話し合いを続けて、行動指針がまとめられました」

こうして決まった方針に基づいて、今はその休暇村ブランドをいかに広めていくかというステージに入っているといえる。


DASH村のような自給自足の暮らしに憧れて

大学を辞めたあと、10か月住み込みで働いた、群馬嬬恋村のキャベツ畑。

大学を辞めたあと、10か月住み込みで働いた、群馬嬬恋村のキャベツ畑。

 幼少期の自然体験は、実はそれほど豊富だったわけではない。すごく自然に興味があったというわけでもない。ややミーハーなんですがと言いつつ話してくれたのが、テレビ番組の「ザ!鉄腕!DASH!!」でアイドルグループが開墾するDASH村への憧れだった。自給自足の暮らしを自分でもしてみたいと、農業に関心を持ち始めたのは高校時代のことだった。  ただ、大学で進学した先は、農業とはまったく関係のない経営学系の学部。実家から満員電車に揺られて通っていたが、大学の環境にもなじめず、だんだん人混みの中にいることに苦痛を感じるようになって、2年で退学を決めた。高校時代に憧れた農業をしたいと、ハローワークに通って探し当てたのが、群馬県嬬恋村のキャベツ畑での10か月間の住み込み仕事。この時の体験が、自然とかかわる仕事をしたいという決定的な思いにつながった。  「高原のキャベツ畑は景色もよかったですし、朝4時頃から始める収穫作業が終わった頃に吹いてくる風がすごく気持ちよくって、やっぱいい! こういう自然の中で働きたい!と思ったんです」  この後、農業の道に進む前に、ベースとなる自然環境のことをきちんと学んでおきたいと、専門学校への進学を決めた。農業も自然を相手にする仕事だから、自然のことを知ることが将来にも役立つだろうという思いだ。当時は卒業後に農業を始めるつもりで入学した専門学校だったが、結果、この選択が一つの転機になった。  「専門学校での生活は、期待通りというか、期待以上のものでした。インタープリテーションの実習で学んだことは、本当に今の仕事にかなり役立っているという以上に、ほぼそのまま使えています。でも、そういう技術的なことよりも私にとって大きかったのが、いっしょに勉強していた同じクラスの仲間たちの存在でした。あのときの2年間を通じて、人と楽しく過ごすことのかけがえのなさを改めて思い起こさせてくれたんだと思います」

人とかかわることが楽しいことと思えるようになった専門学校時代の生活

 農業の道に進んだ場合、自然と向き合うことが求められるがゆえに、職人的に一人の世界に入り込むことになるのだろうと覚悟を決めていたと井上さんは言う。大学を辞めて人間関係に疲れていた当時はそうした生き方を選びたいと思っていたが、専門学校でクラスの仲間とかかわっていくうちに、気持ちの中で変化が芽生えていった。もともと小さい頃には人を楽しませるのが結構好きだったことを、その頃、思い出してきていた。

 「人とかかわることが苦じゃなくなったというか、むしろ楽しいことだと思えてきたのは、専門学校時代の生活を通してでした。林業の実習で木を1本伐るのにも、みんなで声を掛け合いながら協力しないと伐れませんでした。いろんなカリキュラムの中で、人と協力しないとできないことがたくさんあって、人とかかわることの意義を実感するようになったのです」

 授業以外でも、放課後の遊びとしてフットサルを楽しんだのもよい思い出になっている。大会にもエントリーして、仲間とともにボールをつないでゴールに運んでいく喜びを分かち合った。カラオケにもしょっちゅう繰り出していた。大学時代の反動もあったのかもしれないが、人とかかわることをひたすら楽しむ毎日は、しかし、だからこそ、今の仕事に続いている部分だと井上さんは言う。

 「自然環境についての勉強もちゃんとやってきたのはもちろんですが、脇目もふらずというほどがっつりと勉強してきたわけでもなくて…。でも、休暇村に宿泊してくるお客様も、本格的な自然体験というよりは、割とライトな感覚で自然を楽しむことを求めている人が多いように思います。人とのかかわりの中で味わう自然体験を提供するという意味では、専門学校時代の学業以外の時間に過ごした仲間との時間が、実はとても大きかったんじゃないかと思っています」

 今後の目標は、今の延長線上にあると井上さんは言う。今取り組んでいることを確実に継続していきながら、“自然体験の入口”としての存在感をもっと際立たせていくこと。手軽に楽しめる自然体験をしたいと思った時、真っ先に休暇村に行ってみようかと思い浮かべてもらえるような、そんな存在として認めてもらうためにも、一人ひとりのお客さんと向き合う日々を大事にしていきたい。

休暇村南伊豆の眼前に広がる弓ヶ浜

休暇村南伊豆の眼前に広がる弓ヶ浜

休暇村南伊豆のラウンジ

休暇村南伊豆のラウンジ


一日のスケジュール

5:30頃起床。
身支度をしていると、6時頃には小1の子どもが起きてくるので、登校準備を手伝う。
6:40家から職場までは約5分で到着。
7:00フロントに入って、業務開始。
7:00-7:3030分ほど朝のお散歩会を担当。
~10:00チェックアウトの対応をしながら、その日の宿泊客の情報をまとめた台帳を作成。
10:15出発「お出かけプログラム」と称して、石廊崎など観光スポットまでの送迎をする。
12:15「お出かけプログラム」のお迎え。
お迎え後は、夕方まで休憩。家に帰って昼寝をしたり、共働きなので家事を分担したりする。
16:00~チェックイン対応をしながら、電話対応をはじめ、プログラムの企画構想などを進めている。
17:30~19:00レストランの営業に合わせて、ヘルプに付く。
19:00~20:00たまった事務作業等をこなす。
20:00~21:00「星空カフェ」を担当。
終了後、残務があればこなして、なければ帰宅の途につく。
24:00頃就寝。

※休暇村南伊豆のスタッフは、裏方も含めて総勢50~60人。勤務体制は部署ごとに違うが、井上さんを含むフロント及びレストラン業務を担うスタッフの多くが、朝来て昼休みを長めにとるという勤務形態をとる。
 休暇村は全国に37施設あるため、プログラム研修や階層ごとの研修(新人研修、中堅職員研修など)、各種話し合いなどで年に1度ほどは他の地域のスタッフと会う機会もある。そうした機会を生かして、困りごとの相談や情報共有など連絡し合えるつながりをつくっていく。

ホテルスタッフ・井上晃一さんの七つ道具

  1. ホテルマン・井上晃一さんの“七つ道具”
    ホテルマン・井上晃一さんの“七つ道具”
    宿泊台帳…ホテルマン独特の道具としてまずあげられるのが、宿泊台帳。文字通り、その日の宿泊客の情報を記載しているもので、この仕事をするうえで欠かせない。
  2. ユニフォーム…休暇村のユニフォームは、ちょうどこの4月(2019年4月)から全国一斉にリニューアルしたばかり。それまでは、ワイシャツにベストにスラックスの正装服だったが、すぐにでも自然に飛び込めるようなアクティブなデザインに変わった。
  3. ポーチ…筆記用具はもちろん、プログラムなど必要なものがあればここに入れて持ち歩ける。
  4. ノルディック・ウォーキングのポール…写真にはないが、朝のお散歩会で貸し出しているもの(ノルディック・ウォーキングは、2本のポールを使うことで運動効果を高めるフィットネスエクササイズの一種)。
  5. レーザーポインター…星空カフェで星座について説明するのに使っている。
  6. コーヒー…毎晩の「星空カフェ」でも出しているが、朝も7時から「ビーチでモーニングコーヒー」と謳って、コーヒーを片手に散策してみませんかとお誘いしている。
    ここ休暇村南伊豆では、コーヒーが、館内と屋外をつなぐ一つのキーアイテムとなっている。
  7. 身一つ…ホテルマンは、身一つですべてのことに対応するのが基本。

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  1. 001「身近にある自然の魅力や大切さをひとりでも多くの人に伝えたい」 -インタープリター・工藤朝子さん-
  2. 002「人間と生き物が共に暮らせるまちづくりを都会から広げていきたい」 -ビオトープ管理士・三森典彰さん-
  3. 003「生きものの現状を明らかにする調査は、自然を守るための第一歩」 -野生生物調査員・桑原健さん-
  4. 004「“流域”という視点から、人と川との関係を考える」 -NPO法人職員・阿部裕治さん-
  5. 005「日本の森林を守り育てるために、今できること」 -森林組合 技能職員・千葉孝之さん-
  6. 006「人間の営みの犠牲になっている野生動物にも目を向けてほしい」 -NPO法人職員・鈴木麻衣さん-
  7. 007「自然を守るには、身近な生活の環境やスタイルを変えていく必要がある」 -資源リサイクル業 椎名亮太さん&増田哲朗さん-
  8. 008「“個”の犠牲の上に、“多”を選択」 -野生動物調査員 兼 GISオペレーター 杉江俊和さん-
  9. 009「ゼネラリストのスペシャリストをめざして」 -ランドスケープ・プランナー(建設コンサルタント)亀山明子さん-
  10. 010「もっとも身近な自然である公園で、自然を守りながら利用できるような設計を模索していく」 -野生生物調査・設計士 甲山隆之さん-
  11. 011「生物多様性を軸にした科学的管理と、多様な主体による意志決定を求めて」 -自然保護団体職員 出島誠一さん-
  12. 012「感動やショックが訪れた瞬間に起こる化学変化が、人を変える力になる」 -自然学校・チーフインタープリター 小野比呂志さん-
  13. 013「生き物と触れ合う実体験を持てなかったことが苦手意識を生んでいるのなら、知って・触って・感じてもらうことが克服のキーになる」 -ビジターセンター職員・須田淳さん(一般財団法人自然公園財団箱根支部主任)-
  14. 014「自分の進みたい道と少しかけ離れているようなことでも、こだわらずにやってみれば、その経験が後々活きてくることがある」 -リハビリテーター・吉田勇磯さん-
  15. 015「人の営みによって形づくられた里山公園で、地域の自然や文化を伝える」 -ビジターセンター職員・村上蕗子さん-
  16. 016「学生の頃に抱いた“自然の素晴らしさを伝えたい”という夢は叶い、この先はより大きなくくりの夢を描いていくタイミングにきている」 -NPO法人職員・小河原孝恵さん-
  17. 017「見えないことを伝え、ともに環境を守るための方法を見出すのが、都会でできる環境教育」 -コミュニケーター・神﨑美由紀さん-
  18. 018「木を伐り、チップ堆肥を作って自然に返す」 -造園業・菊地優太さん-
  19. 019「地域の人たちの力を借りながら一から作り上げる自然学校で日々奮闘」 -インタープリター・三瓶雄士郎さん-
  20. 020「もっとも身近な、ごみの処理から環境に取り組む」 -焼却処理施設技術者・宮田一歩さん-
  21. 021「野生動物を守るため、人にアプローチする仕事を選ぶ」 -獣害対策ファシリテーター・石田陽子さん-
  22. 022「よい・悪いだけでは切り分けられない“間”の大切さを受け入れる心の器は、幼少期の自然体験によって育まれる」 -カキ・ホタテ養殖業&NPO法人副理事長・畠山信さん-
  23. 023「とことん遊びを追及しているからこそ、自信をもって製品をおすすめすることができる」 -アウトドアウェアメーカー職員・加藤秀俊さん-
  24. 024「それぞれの目的をもった公園利用者に、少しでも自然に対する思いを広げ、かかわりを深くするためのきっかけづくりをめざす」 -公園スタッフ・中西七緒子さん-
  25. 025「一日中歩きながら網を振って捕まえた虫の種類を見ると、その土地の環境が浮かび上がってくる」 -自然環境コンサルタント・小須田修平さん-
  26. 026「昆虫を飼育するうえで、どんな場所に棲んでいて、どんな生活をしているか、現地での様子を見るのはすごく大事」 -昆虫飼育員兼インタープリター・腰塚祐介さん-
  27. 027「生まれ育った土地への愛着は、たとえ一時、故郷を離れても、ふと気付いたときに、戻りたいと思う気持ちを心の中に残していく」 -地域の森林と文化を守るNPO法人スタッフ・大石淳平さん-
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  29. 029「今の時代、“やり方次第”で自然ガイドとして暮らしていくことができると確信している」 -自然感察ガイド・藤江昌代さん-
  30. 030「子ども一人一人の考えや主張を尊重・保障する、“見守り”を大事に」 -自然学校スタッフ・星野陽介さん-
  31. 031「“自然体験の入り口”としての存在感を際立たせるために一人一人のお客様と日々向き合う」-ホテルマン・井上晃一さん-
  32. 032「図面上の数値を追うだけではわからないことが、現場を見ることで浮かび上がってくる」 -森林調査員・山本拓也さん-

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