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「用語解説から読み解く環境問題」バックナンバー

0072016.04.19UP国立公園の保護方策-地域制公園と営造物公園ってなに?-

 先日、やんばる地域(沖縄島北部)の国立公園指定についてパブリックコメントが実施されました(平成28年2月27日(土)?3月27日(日))。
 やんばる地域は、沖縄島北部に広がる国内最大級の亜熱帯照葉樹林で、琉球列島の形成過程を反映して形成された島々の地史を背景にヤンバルクイナなど多種多様な固有動植物及び希少動植物が生息・生育するほか、石灰岩の海食崖やカルスト地形、マングローブ林など多様な自然環境が特徴となっている地域です。
 環境省が2010年度に実施した国立・国定公園総点検事業では、新たな国立公園候補地の選定を行っていますが、やんばる地域も候補の一つとして高い評価を受けました。ここにきてようやく地権者や関係機関等との調整がまとまったことで、2018年7月の国立公園指定をめざした取り組みが進んでいるわけです。

「国立公園」の歴史と経緯

イエローストーン国立公園の間欠泉(© YellowstoneNPS)
イエローストーン国立公園(© YellowstoneNPS)

イエローストーン国立公園の間欠泉(© YellowstoneNPS)
イエローストーン国立公園の間欠泉(© YellowstoneNPS)

 国立公園とは、文字通り、国家が設立・指定した公園です。世界初の国立公園は、1872年3月1日にアメリカ合衆国で誕生したイエローストーン国立公園で、時の第18代グラント大統領が「イエローストーン公園法」に署名したことで誕生しました。以後、国立公園設置の動きは世界各国に広がり、2003年版国連保護地域リストには、カテゴリーI(National Park:生態系の保護とレクリエーションを主目的として管理される地域)だけでも3,881地域440万km2が記載されています。これは日本の国土面積(約38万km2)の10倍以上の面積に当たる広大な面積です。
 日本では、1931年に国立公園法(当時)が制定され、1934年3月に、瀬戸内海、雲仙、霧島の3つの国立公園が初めて誕生しました。1957年には国立公園法に替わって自然公園法が制定され、国立公園・国定公園・都道府県立自然公園からなる現在の自然公園体系ができあがりました。
 日本の国立公園(自然公園)の特徴の一つに、土地の所有にかかわらず区域を定めて指定できる「地域制」の公園という点があります。指定区域内では、自然環境を改変する各種の行為が許可もしくは届出を要する行為として規制されます。また、自然とのふれあいの場として各種の利用施設が整備されます。環境省が出先機関を設置して、許認可をはじめとする各種の管理を行っています。

日本の国立公園で採用している「地域制」とは

上高地(中部山岳国立公園)
上高地(中部山岳国立公園)

 地域制自然公園は、土地の所有権に関わらず一定の要件を有する地域を公園として指定し、各種行為を規制(公用制限)することにより目的を達成しようとする公園制度です。現在の日本の自然公園制度の基本をなす制度です。
 日本でこうした制度が導入された背景には、国土が狭小なため公園専用地の取得や設定が現実的でないことがあげられます。地域制をとることで、民地にある採草地や農耕地、二次林などの生産用地や神社・仏閣なども、優れた自然風景の一部として国立公園(自然公園)に取り込むことができるわけです。
 日本では、自然公園だけでなく保護地域制度のほとんどが同様の手法で保護されています。土地所有に関わらず指定できるという点で有効な方策ですが、その分、関係者の利害調整等が課題となります。やんばる地域の国立公園指定は、こうした地権者・関係者の調整を乗り越えて、新たに指定されようとしているわけです。

公園指定のもう一つの方法「営造物公園」とは

新宿御苑の桜

新宿御苑の桜
新宿御苑の桜

 地域制の公園指定に対して、アメリカやカナダの国立公園のように、公園当局が所有権など土地の権限を取得することによって設定される公園を営造物公園と言います。
 日本では新宿御苑や皇居外苑などの国民公園や都市公園法に基づく都市公園がこの手法で設定され、公園全体が施設という概念で管理されています。
 土地利用目的が明確であるため公園としての管理がしやすいという利点がある反面、日本のように国土が狭く、高度に土地利用が進んでいる場合には、権限取得のための財政的負担も大きく、限定的にならざるを得ません。また、農林業などの土地利用が行われることによって形成されている風景(棚田、雑木林など)を保護していくためには、施設概念の公園設定手法は適していません。このため、日本では国立公園などの自然公園やその他の保護地域を設定する手法として、地域制を採用しているのです。

世界自然遺産の登録に向けて

白神山地とともに日本で初めて世界自然遺産に登録された屋久島
白神山地とともに日本で初めて世界自然遺産に登録された屋久島

 やんばる地域の国立公園化は、世界自然遺産登録をめざす「奄美・琉球諸島」(鹿児島、沖縄)の法規制による保護強化策の一環でもあります。世界遺産委員会では、自然遺産としての「顕著で普遍的な価値」とともに、その保護・管理の状況等について審査されるため、国立公園指定などによる法規制が重要な要素になります。
 日本の世界自然遺産は、1993年に白神山地および屋久島が初めて登録されました。その後、2003年になって環境省と林野庁が「世界自然遺産候補地に関する検討会」を設置して、国内で今後新たに世界自然遺産として推薦できる地域があるかどうかを学術的見地から検討し、「知床」、「小笠原」、「奄美・琉球諸島」の3地域を今後5年程度の間に登録できる候補地として選定しました。翌2004年、当時、保護・管理の体制等が整っていた知床が推薦され、2005年の世界遺産委員会で国内3箇所目の自然遺産として登録されました。しかしその後はなかなか登録が進まず、2010年1月になってようやく、小笠原の推薦書等が世界遺産委員会に提出され、2011年6月に4箇所目の登録が実現しています。
 今回、やんばる国立公園が指定されることになった背景には、3候補地の中で未だ推薦されていない「奄美・琉球諸島」の世界自然遺産登録に向けた保護策の強化という側面があるわけです。「奄美・琉球」地域では、やんばるの他にも、西表石垣国立公園(沖縄)の区域を拡張して西表島全域を国立公園に指定するとともに、鹿児島の奄美群島でも国立公園の指定をめざした調整が続いています。

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