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「かしこい省エネは、まちの電器屋さんに聞け!」バックナンバー

0052020.04.28UP家電のプロにとどまらない、住まいやまちづくりのプロとして地域の温暖化対策を牽引

まちの電器屋さん:峯田電器株式会社 代表取締役社長 峯田和宜(まさのり)さん
2歳年上の兄、4歳離れた妹の3人兄妹の真ん中。東京の大学を卒業後の一年間、滋賀にある全寮制の合宿研修施設でまちの電器屋の跡継ぎ候補としての基礎を学んだ後、地元に戻って支店の営業から修行を積んだ。当時、営業車の割り当てがなく、雨の日も雪の日も自転車で顧客まわりをする日々だったと振り返る。
創業の定助じいちゃんの代から引き継ぐ教えは、「買う人と売る人の心が一つになった時に初めて販売が成立する。商売上手か下手かより、誠実さが一番大事」という。2児の父として子育て奮闘中。
聞き手:NPO法人環境ネットやまがた 理事・事務局長 大場健一さん
     (山形県地球温暖化防止活動推進センター センター長)
1996年環境カウンセラー事業者部門登録、1998年やまがた環境カウンセラー協議会事務局長就任。NPO法人環境ネットやまがたの理事・事務局長として、2004年に山形県地球温暖化防止活動推進センター指定、2005年エコアクション21地域事務局認定を受ける。エコアクション21審査人、山形県地球温暖化防止活動推進員、エネルギー管理士。
峯田電器株式会社社長の峯田和宜さん(左)と、山形県地球温暖化防止活動推進センター センター長の大場健一さん(右)

峯田電器株式会社社長の峯田和宜さん(左)と、
山形県地球温暖化防止活動推進センター センター長の大場健一さん(右)


人生の分岐点となった一年間の合宿研修

山形県東村山郡山辺町にある峯田電器山辺本社。JR左沢線の羽前山辺駅から徒歩3分ほど、ショッピングセンターの隣に立地する。明るく元気なお店づくりをめざしていて、扉を開くと、ニコニコと笑顔を見せる店自慢のマドンナたちが元気よく声をかけてくれる。

山形県東村山郡山辺町にある峯田電器山辺本社。JR左沢線の羽前山辺駅から徒歩3分ほど、ショッピングセンターの隣に立地する。明るく元気なお店づくりをめざしていて、扉を開くと、ニコニコと笑顔を見せる店自慢のマドンナたちが元気よく声をかけてくれる。

 滋賀県草津市に、まちの電器屋の後継者育成を目的とした、松下幸之助商学院という全寮制の合宿研修施設がある。1年間の研修期間を通じて、まちの電器屋の経営に必要なノウハウや商人としての精神などを合宿形式で学ぶとともに、電気工事士やガス・水道工事など各種資格を取得するなどしたあと、親元の店舗に戻って後継者としての勤務を開始する。
 今回の主人公、山形県東村山郡山辺町に店を構える峯田電器の3代目社長・峯田和宜さんも、大学卒業を機に商学院で1年間の研修生活を送り、自店に戻って修行を積んだのち、2019年11月から社長業を引き継いでいる。当年取って40歳。高齢化が進み、後継者不足に悩むまちの電器屋さんとしては珍しい若社長といえる。
 「もともと家業を継ぐつもりはなかったんですよ。2歳年上の長男がいて千葉の大学に行っていたので、兄が継ぐんだろうと、自分は東京生活を満喫していました。ところが、その兄が大学を卒業してからもバンド活動を続けて、徐々に人気が出てきていました。自分も大好きで、ライブにもしょっちゅう観に行って、『兄ちゃんかっこいいな!』って、応援していたんです。やめて家を継ぐなんてもったいない、絶対に続けるべきだと思っていたから、兄が継がないことに異論はありませんでした。でも、自分も継ぐつもりはなかったから、『おれも継がないよ』と、一度は言ったんですよ。現会長の父も、『じゃあ仕方ない、おれの代までか』と覚悟していたようです。ただ、いざ兄が芸能の世界に進んで、自分も継がないとなったときのことを考えると、簡単に出せる結論ではないと思い直して、実家に戻る覚悟を決めました」


峯田社長の2歳年上の兄は、バンド活動だけでなく、俳優業としても活躍する峯田和伸さん。お店のカウンター前には特設コーナーを設けて、兄の活躍を応援している。

峯田社長の2歳年上の兄は、バンド活動だけでなく、俳優業としても活躍する峯田和伸さん。お店のカウンター前には特設コーナーを設けて、兄の活躍を応援している。

 商学院での一年間は、朝6時前に鳴り響く太鼓の音で起こされ、朝礼広場に集まってそれぞれ故郷に向かって一礼をするところから一日が始まる。毎朝3kmのランニングと宿泊棟の清掃をしてから、授業に入る。夕方まで学んだ後、夜は22時に完全消灯して真っ暗になる。日曜祝日などは門限時刻まで外出もできるが、親近者の忌引き等の特例を除いて、帰省も外泊も一切できない、外部と隔離された生活で学業に集中する。携帯電話も勉強に必要ないと持ち込みを禁止され、携帯なしの一年を送った。
 「商学院の一年間は、自分にとって人生の分岐点になったと思っています。それまで、自宅と店は別にあったので、店でどんな仕事をしていて、どんなふうにお客様と接しているのかということも知らずに、家の仕事を手伝うこともなく育ってきていました。東京の大学にも行かせてもらって、勉強もしましたけど、とにかく東京での生活が楽しかったんですよ。ですから、商学院での1年がなかったら今の自分はないと思えるくらい、ガラッと気持ちが入った感じがしています。こうならなきゃいけないんだということを、まだまだ全然できてはいませんけど、いろいろと教わった、大事な経験でした」


環境マイスターとして、地域住民に温暖化対策の重要性と具体的な実践行動について伝える役割を担う

峯田電器株式会社では、従業員のジャンパーの襟元に、SDGsのバッジが付いている。顧客が気付いて、『そのバッジ、何なの?』と聞かれたときに答えられないと困るからみんなで勉強しようと、従業員の意識も高まっている。

峯田電器株式会社では、従業員のジャンパーの襟元に、SDGsのバッジが付いている。顧客が気付いて、『そのバッジ、何なの?』と聞かれたときに答えられないと困るからみんなで勉強しようと、従業員の意識も高まっている。

 山形県は、家電販売店をはじめとする事業者が日々の営業活動を通じて、顧客に対して温暖化対策など環境保全の重要性を伝えるとともに購買等による具体的な実践行動を推奨する、環境マイスターの認証制度を全国に先駆けて導入した地域として知られる。家電部門で大きな役割を果たしているのが、峯田電器も加盟する山形県電機商業組合だ。峯田電器の会長で和宜さんの実父でもある峯田季志さんが組合の理事長を務めている。峯田電器では会長・社長ともに環境マイスター(家電部門)の認証を受けていて、朝礼の場などを通じて社員にも話をしているという。
 2005年に自動車部門及び家電部門、少し遅れて2008年からサッシ・ガラス部門をスタートした環境マイスターは、県の強力なバックアップのもと、各業界団体と山形県地球温暖化防止活動推進センター及び認定NPO法人環境市民の3者が連携して制度を運用している。事務局を務める山形県地球温暖化防止活動推進センターの大場健一センター長は、事業者の協力を得て進めている環境マイスターの効果について、次のように話す。
 「山形県は山地に囲まれた盆地も多く、夏暑く、冬寒いという特徴があります。山辺町を含む村山地域でも、東は奥羽山脈、西は出羽山地に囲まれて、夏はフェーン現象の影響で連日30度を超す真夏日も多い一方、冬は季節風の影響で雪が多く、気温も低くなります。全国との比較では、特に冬場の暖房にかかるエネルギー使用量が大きくなるのが県全体の特徴の一つです。もう一つ、家庭の省エネ・温暖化対策を考えたときに特徴的なのが、我慢強いという山形の県民性です。これは、物を大事にする長所でもある反面、20年以上昔の冷蔵庫などを使い続ける人も多いという側面にもなっています。省エネ性能が大きく改善した最新の冷蔵庫に買換えていただくことで家庭の温暖化対策を進めるとともに、お客様にとっても月々の電気代が安くなりますから、そうしたところで、まちの電器屋さんが地域住民の皆様に働きかけていただけるのは、非常にありがたいことと思っています」
 家庭の温暖化対策を考えたとき、家電の買換えや効率的な使い方、住宅や自動車など幅広い対策が求められる。それぞれの業界団体との連携で温暖化対策を進めていくことで、生活全体を網羅する広い部分をカバーできることになる。
 
 一方、峯田社長も、環境マイスターとして発信できることのメリットについて、次のように話す。 
 「自分たち電器屋主導の発信では、なかなか気づけない部分も多いですから、環境マイスターの研修機会などを通じて、最新の取り組みなどについて導いていただけるのはすごくありがたいと思っています。例年開催しているフォローアップ研修で、赤道近くにあるキリバスという国に帰化された方のお話をお聞きしたのは衝撃的でした。すごくきれいな海の写真から一転して、温暖化による海面上昇によって、海岸のヤシの木がなぎ倒されて、高波で住宅が浸水してもう住むところもない、このままだとこの島国が消えてしまう、とにかくこの温暖化を止めなくてはいけないという切実なお話でした。ああこれは他人事じゃないよなと思わせてくれる貴重な機会でした」
 顧客に対しては、電気代の節約による損得だけでなく、CO2の削減や気候変動への対策などについて峯田さん自身の実感として伝えることを大事にしている。最近は、案外、顧客も温暖化対策への意識が高まってきていて、話も聞いてもらえるようになったようにも感じるという。
 山形県では、この冬は極端に雪が少なかった。蔵王山も雪がつかずに黒い地肌があらわになっていた期間が長く続いた。このままいくと夏場の水不足も心配になるといった話題が出ることもある。スキー場のインストラクターをしている顧客が、仕事にならないからと昼の2時過ぎから店にお茶を飲みにきたこともあった。そんなときに話題になるのは、温暖化の影響による異常気象の話だったりもする。夏も猛暑日が増えてきて、温暖化に対する危機意識は地域共通の話題になっている。自然と近い暮らしをしている分、自然の変化にも敏感なのだろう。


73年間で培ってきた信頼関係をベースにして、地域の困りごとに対処

 1974年にラジオや白黒テレビを販売するまちの電器屋として創業を開始した峯田電器は、いわゆる生活用家電製品の販売にとどまらず、OA事務機器など事業系の電化製品、介護用品の販売・レンタル、オール電化やリフォームといった住宅設備など、幅広い分野の電化製品を取り扱いながら、地域の困りごとの解決に奔走する。
 「うちの店では、お客様のご要望に対して応えられないものはないと思って仕事をしています。こうしたいというお客様の思いを全て叶えて差し上げようという気持ちでいるんですよ。古くからいる社員は、冗談半分で『うちで準備できないものはベビーカーと棺桶くらいだ』などと言っています。ちょっと前になりますけど、その先輩社員が、実家を出て山辺町に移り住んだお客様から『実家の墓には入れないから墓を作ってほしい』と言われたことがありました。石材屋さんに頼めばできることなんですけど、『いやいい、あんたに頼むから』と言ってくださったのです。これは1件だけの特殊な例ですけど、そんなふうに思っていただけることに対して、とてもありがたいという思いを胸に、しっかりと応えていかなくてはと思っています。ですから、何を言われても『NO』とは言わないという気持ちで臨むことを店のモットーにしています」
 頼まれるのは、仕事にかかわることだけでない。一人暮らしのおばあちゃんから、『脚立がいるんだけど買いに行けない』と相談されて、お遣いに行くようなこともある。もちろん、頼まれて行くだけでなく、顧客宅にはエアコンのフィルター掃除などで定期的に訪問している。最近は自動掃除機能の付いたエアコンもあるが、中を開いてみると目詰まりしていることも多く、人の手でケアしてあげないとうまく機能しないこともある。温度の設定や風の量の調整など高齢者には難しい操作もあって、折に触れて設定の調整をしたりもする。そんな機会を通じて、効果的な家電製品の使い方についても伝えていく。
 家電販売だけでなく、住宅設備なども手掛けているから、太陽光発電システムの設置や住宅リフォームの相談を受けることもある。近年は、卒FIT【1】後に向けた蓄電池導入の注文も増えている。取材に訪れた日も、工事が1件入っていた。

リフォーム提案コーナー

リフォーム提案コーナー

介護用品の販売・レンタルコーナー

介護用品の販売・レンタルコーナー


 環境マイスター認定者向けに毎年実施されるフォローアップ研修では、2019年度には住宅の断熱性能をテーマに、サッシ・ガラス部門との合同研修として実施された。電機商業組合からの要望を受けて企画したものだ。まちの電器屋さんのそんな姿が心強いと、大場センター長は言う。
 「山形県の場合は、先ほどお話ししたように、冬場のエネルギー消費が多いので、住宅の断熱性を高めることが非常に大事ですし、温暖化対策としてのポテンシャルも高いのです。まちの電器屋さんが、家電のことだけでなく、建物の性能についても関心を持たれて、消費者の皆さんにアドバイスをしていただけるというのは非常にありがたいなと思います。最近は、屋根の上に太陽光パネルを載せるお宅も増えていますし、車を充電器代わりに使うこともあります。家電も遠隔で操作したり、家と一体的にコントロールして効率的なエネルギー使用ができるように制御したりと、だんだん家と車と家電との境目がなくなりつつあるようにも思うんですね。ですから、もはや電器屋さんというだけじゃなくて、住まい方とか暮らし方全般にかかるお仕事をされている、そんなふうにも感じています」
 峯田社長も、そんな暮らし全般を担う存在としての役割を負っていきたいと話す。
 「自分としては、家電販売のプロというだけではなくて、住宅や暮らしのことはもちろん、さらには地域全体の温暖化対策につながるような意識改革やインフラの整備などについても対応できるまちづくりのプロとして地域を牽引していく役割を、まちの電器屋が担っていかないといけないと思っています。そのためには、地域のいろいろな方たちとの連携がすごく大事だと思うんですね。小さな町の小さなお店ですけども、キラリと輝けるお店として頑張っていきたいと思っています」

峯田電器社長の峯田和宜さん。電気販売のプロというだけでなく、地域のまちづくりのプロとしての役割を担っていく、そんな決意を口にする。一方で、まちの電器屋としての本分である、日々の細やかな対応をおろそかにしてはいけないと心している。住宅やまちのことにも相談が入るのは、『お前に頼めば大丈夫』という地域からの信頼があってのこと。その信頼は、創業から73年間のお客様一人一人とのかかわりの中で生まれてきたものだから、それは変わらず大事にしていきたいと話す。

峯田電器社長の峯田和宜さん。電気販売のプロというだけでなく、地域のまちづくりのプロとしての役割を担っていく、そんな決意を口にする。一方で、まちの電器屋としての本分である、日々の細やかな対応をおろそかにしてはいけないと心している。住宅やまちのことにも相談が入るのは、『お前に頼めば大丈夫』という地域からの信頼があってのこと。その信頼は、創業から73年間のお客様一人一人とのかかわりの中で生まれてきたものだから、それは変わらず大事にしていきたいと話す。


用語解説

【1】卒FIT
 FIT制度(固定価格買取制度)は、主に再生可能エネルギーの普及拡大と価格低減を目的に、再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を一定期間、買取価格を固定して電気事業者に買取を義務付ける制度。
 固定価格による買取期間が満了した発電設備またはそうした状況を「卒FIT」と呼び、発電した電力を自家消費に回すことで電力購入量を減らすことで、設備の有効な活用をめざす。

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