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「江戸・東京の名庭園を歩く」バックナンバー

0072020.03.03UP庭園・冬の装い

はじめに

 緑濃い季節を過ぎ、紅葉が始まり、そして落葉した冬の庭園は、冬枯れて殺伐として見どころが無いと思う方が多いかも知りません。ところが、冬の庭園にはこの季節だけしか見ることが出来ない装いがあります。
 東京都には九カ所の文化財庭園があります。小石川後楽園(特別史跡・特別名勝)、浜離宮恩賜庭園(特別名勝・特別史跡)、六義園(特別名勝)、旧芝離宮恩賜庭園(名勝)、向島百花園(史跡・名勝)、旧古河庭園(名勝)、殿ヶ谷戸庭園(名勝)、旧岩崎邸庭園(重要文化財)、清澄庭園(都指定名勝)です。
 九カ所の庭園では独特の冬支度をするなど趣向を凝らして皆様をお迎えしています。

雪吊り

 まず、目を引くのは雪吊りです。雪吊りで有名なのは金沢の兼六園です。毎年、金沢は30cm以上の降雪があります。重く湿った雪はマツに積もり、その重みでマツの枝が折れる雪害から樹木を守るために施されるのが雪吊りです。柱を立て、柱の先端から放射状に縄を張り、マツの枝をつり上げるもので、11月から雪吊りを始めます。
 兼六園の雪吊りは別名「リンゴ吊り」ともいわれています。加賀藩は西洋リンゴの栽培に初めて成功したと言われていますが、リンゴの重みで枝が折れるのをふせぐために、リンゴの木の中心に柱を立てて、柱のてっぺんから下ろした縄で枝を吊って、枝折れを防いだそうです。それをマツに応用したので「リンゴ吊り」と呼ばれています。
 兼六園では54カ所の雪吊り(リンゴ吊り)をしますが、中でも唐崎の松(高さ9m、枝張り20m、幹回り2.6m)の雪吊は迫力十分です。5本の芯柱(最大高さ16m)を立て、約800本の荒縄(6、8mm)でマツの枝を吊ります。その姿は美しく、冬の凛とした青空に映えています。これは雪害からマツを守るという実用が庭師の美的センスにより「美」を生み出したのです。「用」が「美」に昇華されたのですね。

兼六園の唐崎の松の雪吊り

兼六園の唐崎の松の雪吊り

マツの枝に直接荒縄を結ぶ

マツの枝に直接荒縄を結ぶ


 さて、東京は金沢と異なりあまり雪は降りませんが、冬の景色を演出する目的も兼ねて雪吊りが行われています。兼六園ではマツの枝に直接荒縄を結んで吊りますが、都立庭園の雪吊りは、直接枝に縄を結んで吊ることをしません。帆柱と呼ばれる柱をマツの中心に立て、帆柱の先端から枝に向けて縄(内藤縄や小舞縄など細い縄、5mm程度)を約60本下ろし、マツの裾に「ブチ」と呼ぶ割った竹を回してそこに縄を結び、直接マツの枝に縄を結ばない方法が取られています。ブチを支えるのが、幹に唐竹を結び、傘の骨組みのように見える「カンザシ(バチともいう)」です。


小石川後楽園 一つ松の雪吊り

小石川後楽園 一つ松の雪吊り

清澄庭園の雪吊り

清澄庭園の雪吊り

カンザシ(バチともいう)

カンザシ(バチともいう)


 都立庭園の雪吊りは庭園によって微妙に細部が異なっています。23区内の都立庭園は、現在は東京都東部公園緑地事務所の所管になっていますが、かつては南部公園緑地事務所(浜離宮恩賜庭園、旧芝離宮恩賜庭園、清澄庭園)と北部公園緑地事務所(小石川後楽園、六義園、向島百花園、旧古河庭園)に所管が分かれていて、庭師のセンスでそれぞれ独特の雪吊りを工夫した結果、南部方式、北部方式と呼ばれるようになりました。
 両者の大きな違いは頭飾りとブチにあります。南部方式は頭飾りがバレン(吊縄を編み込む)でブチが棕櫚縄です。北部方式は頭飾りが藁ボッチ(吊縄を固定してその上に藁ボッチをかぶせる)でブチが割竹です。割竹は8の字を描くようにマツの裾を1周させます。

頭飾りのバレン

頭飾りのバレン

頭飾りの藁ボッチ

頭飾りの藁ボッチ


棕櫚縄のブチ

棕櫚縄のブチ

割竹のブチ

割竹のブチ


兼六園の雪吊りの頭飾り

兼六園の雪吊りの頭飾り

 ちなみに兼六園の頭飾りは、荒縄を巻き付けて飾りいぼ結びを施したものです。これは加賀藩の参勤交代の折に、大名行列の先頭を飾る槍の穂先の毛鞘に想を得たものといわれています。

 このように庭園によって異なる雪吊を比べてみるのも楽しいものです。
 (注:旧岩崎邸庭園は、北部公園時代には都に所属していない。また、殿ヶ谷戸庭園は西部公園所管)


霜除け

 暖かいところに育つソテツは桃山時代に渡来し、庭園に導入されました。現在は温暖化で東京でもそのまま十分冬を越すことが出来ますが、当時は冬を越すことが出来なかったので防寒対策を施しました。現在は冬の庭園を演出する風物詩として霜除けが行われています。
 霜除けには「鎧型」と「巻きおろし」型の2方式があります。鎧型とは胴体部分を藁の元の部分をそろえ、鎧の様に見せる作り方です。頭部には藁の穂先で編んだ藁ボッチ(うらぼっち)をかぶせます。巻きおろし型は、わらの穂先を下に向けて胴体を作り、棕櫚縄を巻き下ろします。頭部には藁の元部で編んだ藁ボッチをかぶせます。
 ソテツがない庭園にも霜除けがあります。本物のソテツの代わりに丸太を芯にして霜除けを施すのです。本物のソテツかそうでない張りぼてのソテツかを見極めるのも冬の庭園の楽しみ方の一つです。

鎧型の霜除け

鎧型の霜除け

巻き下ろし型の霜除け

巻き下ろし型の霜除け


菰巻

 マツの幹に“腹巻き”のように藁が巻かれていますが、これは江戸時代から大名庭園で行われていた“菰巻”というマツの害虫(マツカレハの幼虫)を駆除するためのものです。冬になるとマツカレハの幼虫は越冬するために幹を伝って地上に降りてきます。その習性を利用した防除方法が菰巻です。藁を地上1.5mくらいの位置で幹に巻き付けます。すると幼虫はそこが暖かいのでもぐりこみ越冬します。
 庭師の知恵として菰巻は上部の縄は1本だけで緩く縛り、下方は2~3本の縄で強く縛ります。虫が入りやすくしてそして出にくくしているのです。
 菰巻は虫が目を覚ますという啓蟄の前に幹から外して燃やします。しかし、近年では害虫よりも益虫のほうが菰巻に多く入っているとの実証実験結果もあり、防除効果については疑問符がついています。しかし、菰巻は冬景色には欠かせないものなので、益虫を逃がして害虫だけを駆除する燃やし方を工夫するなどして続けてほしい設えです。
 ところで、六義園にある樹齢三百年以上と言われている吹上の松の菰巻には、ほかの松とは異なり「梅結び」が施されています。これも冬ならではの演出です。

菰巻

菰巻

吹上松の菰巻

吹上松の菰巻


門松

 お正月には庭園の門前に門松を飾ります。竹と松は良く目立ちますが梅はあるのでしょうか。三本の竹は染め棕櫚縄で結んでいますが、その形に注目してください。五枚の花弁を表した縁起物として結ぶ飾り結びの一つである「梅結び」なのです。これでめでたく「松竹梅」が揃いました。
 ところで、門松の竹には2種類あることに気付いていますか。
 竹の節の上のところで平らに切り落としている門松と竹を斜めに切った門松があるのです。浜離宮恩賜庭園の庭師に聞いたところ、「ここは徳川将軍家の御庭だったことから門松の竹は斜めに切っています。その由来は、三方ヶ原の戦いで敗走した徳川家康が、竹を武田信玄の首に見立てて「次は切る」との意を込め、斜め切りして門の前に飾ったのが始まりとされています」とのことでした。
 六義園の庭師に聞いてみたところ、「武田は徳川家康によって滅ぼされたので、いつか元に戻るとして斜めに切らないのだそうです」ということでした。どうやらこのことにまつわる説は色々あるようで、確かな説が何なのかは定かではないようです。

浜離宮恩賜庭園の門松

浜離宮恩賜庭園の門松

梅結び

梅結び

六義園の門松

六義園の門松


 冬の庭園は、落葉したことにより、緑で隠れていた庭園の骨格が見えてきます。庭園の骨格は池の形や島の配置、そして築山や滝石組、流れの配置など庭全体の関係性のことで、これを地割ともいいます。
 来園者も少なく静かな佇まいを見せる冬の庭園は、四季を通して一番庭園の本質が見える時なのかもしれません。

新宿御苑の雪吊り

新宿御苑の雪吊り

文京区肥後細川庭園の雪吊り

文京区肥後細川庭園の雪吊り


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