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「世界農業遺産(GIAHS)」バックナンバー

0082017.04.11UP日本農業遺産の初めての認定

 昨年来、FAOのGIAHS科学アドバイザリーグループにおいて議論されてきた世界農業遺産(GIAHS)の選定基準や申請様式の見直しが、今年の1月1日から施行されました。2月にはFAOでGIAHS科学アドバイザリーグループが開催され、新たな認定地域について審議が行われたもようです。
 また、日本では、昨年4月に創設された日本農業遺産の認定地域の決定が3月に公表されました。
 今回は日本で初めての日本農業遺産の認定を中心に、世界農業遺産をめぐる最近の動きについて紹介します。

GIAHSの選定基準の改定

 昨年来、約1年をかけてFAOのGIAHS科学アドバイザリーグループにおいて議論されてきた世界農業遺産(GIAHS)の選定基準や申請様式の見直しが今年の1月1日から施行されました。

(改定されたな選定基準)
http://www.fao.org/fileadmin/templates/giahs_assets/GIAHS_test/07_News/News/Criteria_and_Action_Plan_for_home_page_for_Home_Page.pdf
(改定された申請様式)
http://www.fao.org/giahs/become-a-giahs/submit-a-proposal/en/

改定されたGIAHS申請様式(FAO-GIAHSウェブサイトより)
改定されたGIAHS申請様式(FAO-GIAHSウェブサイトより)

 改定された選定基準については、継続性が重視されたことから、特に大きく変わってはいませんが、以前のGIAHSプロジェクトが生物多様性に重点を置いて実施されていたのに対し、今回の基準では、農業との関係がより重視されています。たとえば、生物多様性は「農業の生物多様性」という表現に変わり、単に希少種がいるというだけでなく、農業システムとの関連性が求められます。文化や社会組織についても同じで、単にお祭りや食文化があるというだけでなく、農業システムとの関連性が必要となります。
 また、農業だけでなく、林業や漁業が含まれるということが強調されており、たとえばランドスケープの特徴のところには、シースケープ(Seascapes、里海)も併記されました。
 申請様式については、農業遺産としての価値を示す5つの基準と、歴史的な背景や現代的な重要性及びそれ以外の項目とが分けられ、後者は前文に当たる「申請されたGIAHSの重要性」のところに記述するように変わりました。
 また、これまでは任意であったアクションプラン(行動計画)が評価の対象として必須となり、従来の「脅威と課題」の分析や「実践的な考慮」(すでに実施されているアクション等)はこの中に組み入れられました。

GIAHS科学アドバイザリーグループ会議(SAG)

 2月にGIAHS科学アドバイザリーグループ(GIAHS Scientific Advisory Group:SAG)が開催され、FAOがすでに受理しているGIAHSの申請について、現地調査の結果も踏まえ認定の可否について審議が行われたもようです。
 FAOが公表しているGIAHSの認定プロセスによると、SAGは次の3つのうちのどれかを決定することとされています。
①サイトの認定
②申請者への申請書の改善と再提出の要請
③申請者への申請書の拒否の通知
 今回は初めて③の拒否の通知を受けたサイトがあったもようで、今後の動向が懸念されます。
 これらの結果は近くFAOのGIAHSウェブサイトで公表されるものと思われます。

GIAHS科学アドバイザリーグループ会議(SAG)(FAO-GIAHSウェブサイトより)
GIAHS科学アドバイザリーグループ会議(SAG)(FAO-GIAHSウェブサイトより)

東アジア農業遺産学会(ERAHS)

 2013年から、日本、中国、韓国の3か国で毎年持ち回りにより開催している東アジア農業遺産学会(ERAHS)。昨年で3か国を一巡し、今年は中国で開催することが決まっています。
 その事前打合せを兼ねて、2月23-25日に中国の海南島(海南省)で「農業遺産の保全に関する国際セミナー」とERAHSの役員会が開催されました。海南島は「中国のハワイ」と呼ばれる南の島で、マンゴーやライチのような熱帯果樹が栽培されています。さすがに真冬なので少し肌寒いところもありましたが、道路の脇にはココナッツやバナナなど熱帯を思わせる植物がたくさんありました。
 ERAHSの役員会では、日程やプログラムが議論されました。日程について、我々ERAHS事務局と中国側の地元主催者との間で考えの違いがあり、議論の結果、再調整することになり、つい先日、中国側の事務局からの連絡で、事情により当初の予定を大きく変更して、7月11-14日(会議を12日、現地調査を13日)に中国浙江省湖州市で開催することになりました。
 もともと、日中韓の政治的、外交的事情に左右されないように、学術研究を中心に交流しようということで、「学会」としましたが、実際には各国のGIAHSサイト、NIAHS(国レベルの農業遺産)サイト間の交流が重要な位置を占めています。ただ、年々参加する農業遺産サイトが増えていることから、今回からは、サイトの紹介はポスターセッションで行い、発表は特定のテーマ(認証・表示・ブランド化、農業の生物多様性、ツーリズム、伝統文化など)を決めて行うことになりました。

「農業遺産の保全に関する国際セミナー」とERAHS役員会(中国・海南省・海口市)
「農業遺産の保全に関する国際セミナー」とERAHS役員会(中国・海南省・海口市)

 日本では、ナビゲーターがERAHSの事務局を務め、各GIAHSサイトの窓口の方に調整をお願いしています(今年からは日本農業遺産のサイトにもお声かけする予定です)。

世界農業遺産申請地域と日本農業遺産認定地域の公表

 3月14日に、農林水産省が世界農業遺産への申請に係る承認及び日本農業遺産の認定を行う地域の決定を公表しました。
 世界農業遺産は、世界において重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域を、各国政府(日本の場合は農林水産省)の承認を得て国連食糧農業機関(FAO)に申請し、FAOに設置された科学アドバイザリーグループ(SAG)の審議を経て、FAOが認定するものです。
 世界農業遺産への認定申請が承認された3地域とその農業遺産システムは、次のとおりです。

①宮城県大崎地域の「「大崎耕土」の巧みな水管理による水田農業システム」
 冷害、干ばつが多発する厳しい農業条件の下、巧みな水管理による水田(湿地生態系)や強い風を防ぐ屋敷林(居久根(いぐね))を通じて豊かな生物多様性を育んでいるシステム

②静岡県わさび栽培地域の「静岡水わさびの伝統栽培(発祥の地が伝える人とわさびの歴史)」
 日本の固有種であるワサビを、沢を開墾して階段状に作ったわさび田で、肥料を使わず湧水に含まれる養分のみで栽培する伝統的な農業を継承しているシステム

③徳島県にし阿波地域の「にし阿波の傾斜地農耕システム」
 急傾斜地を傾斜地のまま農耕し、土の流出を敷き草(カヤ)を畑にすき込むことで最小限に抑え、雑穀などの複合経営により、山間地の環境に適応した持続的な農耕システム

 これらの地域は、これからFAOへの申請手続きに入るわけですが、日本の代表としてぜひとも最終的な世界農業遺産の認定までがんばっていただきたいと思います。

宮城県大崎地域の「「大崎耕土」の巧みな水管理による水田農業システム」(申請書より)
宮城県大崎地域の「「大崎耕土」の巧みな水管理による水田農業システム」(申請書より)

徳島県にし阿波地域の「にし阿波の傾斜地農耕システム」(申請書より)
徳島県にし阿波地域の「にし阿波の傾斜地農耕システム」(申請書より)

初めて認定された日本農業遺産

 日本農業遺産は、日本において将来に受け継がれるべき伝統的な農林水産業システムを有する地域を、農林水産省に設置された世界農業遺産等専門家会議の審議を経て、農林水産大臣が認定するものです。社会や環境に適応しながら何世代にもわたって形づくられてきた伝統的な農林水産業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープ、生物多様性などが一体となった農林水産業システムのうち、世界及び日本における重要性、並びに歴史的及び現代的重要性を有するものとされています。
 昨年4月に農林水産省が創設し、世界農業遺産と併せて申請を受け付け、9月30日の期限までに19地域から申請がありました。書類審査の結果、11月24日に10地域が一次審査を通過し、12月から1月にかけての現地調査、2月24日の申請者からのプレゼンテーションを踏まえた世界農業遺産等専門家会議委員による審議を経て、3月14日に結果が公表されました。
 日本農業遺産のような国レベルの農業遺産は、GIAHSに対してNIAHS(Nationally Important Agricultural Heritage Systems)と呼ばれます。中国と韓国ではともに2012年3月、日本に先行して制度を設けています。中国はこれまで3次にわたり計62地域、韓国は農業遺産と漁業遺産とを合わせて11地域が認定されています。
 今回、日本農業遺産に認定された地域は、世界農業遺産への申請を承認された3地域を含む8地域で、それぞれの農業遺産システムは次のとおりです。

①宮城県大崎地域の「「大崎耕土」の巧みな水管理による水田農業システム」(世界農業遺産への申請を承認された地域)

②埼玉県武蔵野地域の「武蔵野の落ち葉堆肥農法」
 大都市近郊にありながら、江戸時代から続く住居、耕地、平地林を一体とした土地利用により、現在まで伝統的な「落ち葉堆肥農法」を継承し、高品質な野菜を生産するシステム

③山梨県峡東地域の「盆地に適応した山梨の複合的果樹システム」
 養分や保水力が乏しい傾斜地で、我が国独自に発達した棚式栽培によるブドウやモモなどの多品目の果樹栽培や、果実加工、観光利用などを組み合わせた複合的な果樹システム

④静岡県わさび栽培地域の「静岡水わさびの伝統栽培(発祥の地が伝える人とわさびの歴史)」(世界農業遺産への申請を承認された地域)

⑤新潟県中越地域の「雪の恵みを活かした稲作・養鯉システム」
 棚田・棚池資源を活用し、水の少ない山間地で、横井戸や雪解け水を利用した稲作と遺伝資源としても世界的な位置づけを有する錦鯉の養鯉の伝統的なシステム

⑥三重県鳥羽・志摩地域の「鳥羽・志摩の海女漁業と真珠養殖業-持続的漁業を実現する里海システム-」
 リアス式海岸が連続する地形と豊かな藻場が形成された生態系を活用し、アワビなどの海女漁と、世界に先駆けて発達した真珠養殖の持続的なシステム

⑦三重県尾鷲市、紀北町の「急峻な地形と日本有数の多雨が生み出す尾鷲ヒノキ林業」
 急傾斜地において、独自の伝統技術により、密度管理を適切に行い、長い年月をかけてゆっくりと育てることで高品質なヒノキを持続的に生産するシステム

⑧徳島県にし阿波地域の「にし阿波の傾斜地農耕システム」(世界農業遺産への申請を承認された地域)

 一次審査を通過した地域のうち2地域が今回の認定から漏れましたが、世界農業遺産等専門家会議委員からの指摘事項を踏まえ、申請書の内容や、現地調査への対応、プレゼンテーションの改善を図り、ぜひ再チャレンジを期待したいと思います。
 今回、日本農業遺産に認定された地域は、すでに世界農業遺産に認定されている地域とも連携を深め、農業遺産の認知度の向上など、農業遺産全体の発展のために貢献していただきたいと思います。


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