世界農業遺産に関する最新の情報をお伝えする本連載。今回は、日中韓を中心とした東アジア地域における農業遺産の取り組みについて紹介します。
6月23日から25日まで、新潟県佐渡市で「第2回東アジア農業遺産学会(ERAHS:East Asia Research Association for Agricultural Heritage Systems)」が開催されました。
東アジア農業遺産学会は、国連大学(UNU)等が日本、中国、韓国などの世界農業遺産関係者に呼びかけて、2013年10月に設立された国際的な研究会です。農業遺産に関連した研究を行っている研究者や、各国の世界農業遺産認定地域の関係者らによって、東アジアにおけるFAOの世界農業遺産の取り組みを学術研究面から支援することを目的にしています。
毎年、日中韓3か国が持ち回りで会議を開催することにしており、第1回会議は2014年4月に中国の江蘇省興化市で開催されました。
今回の第2回会議は、東アジア農業遺産学会と佐渡市が主催し、FAO、国連大学、中国科学院地理科学・自然資源研究所(CAS-IGSNRR)、韓国農村遺産協会(KRHA)、J-GIAHSネットワーク会議(J-GIAHS)、新潟県が共催、農林水産省が後援しました。海外(中国、韓国、フィリピン)からの参加者約60名を含め、研究者、政策立案者、地方行政担当者など約150人が参加し、東アジアにおける農業遺産システムの保全に関する科学的な研究や優良事例について活発に議論し、情報交換を行いました。
一日目の開会式では、地元佐渡市の甲斐元也市長が世界農業遺産(GIAHS)を皮切りにユネスコの世界文化遺産、世界ジオパークの3つの世界的な遺産を目指す佐渡市の取り組みを紹介し、農林水産省農村環境課の小平均課長が世界農業遺産に取り組む日本の積極的な姿勢を強調しました。
基調講演では、FAO駐日連絡事務所のチャールズ・ボリコ所長がGIAHSの現状とこれからの方向についてFAOの立場を紹介し、国連大学の武内和彦上級副学長が、国連の持続可能な開発目標(SDGs)における農業の役割、森川里海の連関の重要性などについて講演しました。
このあと、会議は基調発表、研究発表、ポスターセッション、パネルディスカッションと続き、ナビゲーターもパネリストとして日中韓3か国で「限界地域」のおかれた状況の違いについてお話ししました。簡単にまとめると、高齢化と過疎化から地域の農業を守るためには地域の活性化が重要な日本、開発の大きな流れから地域の農業を守る必要のある中国、兼業機会が少なく農業が不振になると地域を離れざるを得ない韓国といった特徴があります。
日本で初めて能登とともに世界農業遺産に認定された佐渡の農業遺産のタイトルは「トキと共生する佐渡の里山」です。佐渡では、1700年の稲作の歴史を背景に、江戸時代の金山の開発で拓かれた水田を中心として、トキも棲める豊かな生態系を保全するため、冬期湛水(ふゆみずたんぼ)や、夏に水田を乾かしても水の残る「江(え)」の設置など「生きものを育む農業」とその認証制度が推進されています。
このため、二日目には会議の参加者が5つのチームに分かれて、佐渡の薪能(佐渡には日本の能舞台の3分の1があります)、佐渡金銀山の近代化産業遺産(ユネスコの世界文化遺産の候補)、二見半島の段丘(地形をうまく活用している事例で、ジオパークの一部)、小倉千枚田のオーナー制度(棚田の保全)などを視察するとともに、トキを育む水田での生き物調査を実際に体験しました。ちょうどそのとき、水田のすぐ上を舞うトキの群れに出会った参加者は、たいへん感激し、大きな歓声をあげていました。
三日目は日本、中国、韓国から15件の研究発表、事例発表があり、閉会式では東アジア農業遺産学会の日本代表を務める金沢大学の中村浩二特任教授が今回の会議を総括し、「日中韓の農業遺産の研究者が一堂に会し、それぞれの知識や経験を熱心に交流した素晴らしい会議であった。会議を準備いただいた佐渡市に感謝する」とその成果を強調しました。
このあと、関係者で作業会合を開き、第3回東アジア農業遺産学会を2016年6月に韓国の大田市で開催することを決めました。近くには、韓国伝統の朝鮮ニンジン(高麗ニンジン)の一大産地があります。今年3月には「錦山(クムサン)の高麗人参農業」として韓国の国家重要農業遺産に認定されました。
日中、日韓の関係はこのところ政治的、外交的に難しくなっていますが、農業遺産に関する限り、とてもいい関係をつくっています。日中韓の農業遺産関係者は来年の韓国での再会を約束し、佐渡の港をあとにしました。
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