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「『ブラサカ(R)』の持つ力を社会に!」バックナンバー

0032019.11.26UP13万人に届けている『スポ育』とは

スポ育との出会い

校庭に出て、スポ育の体験をする。(© JBFA)

校庭に出て、スポ育の体験をする。(© JBFA)

 私自身が初めて『スポ育』というワードを目にしたのは、とある求人サイトの求人票でした。内容は、スポ育講師の募集、というもので、詳細を見ると、ブラインドサッカーを題材にした体験プログラムを小中学校へ提供する講師を募集するというものでした。
 最初見た時は、「スポ育?ブラインドサッカー??教育プログラム??」と、とにかく頭の中にたくさんの??が浮かんできたことを思い出します。それと同時に、ものすごく気にもなりました。
 私自身、教育系の大学卒ということもあり、教育には元々興味関心があったこと、また、サッカーは幼い頃より常に身近にあったこと、そして視覚障がい者のサッカーという、存在も知らなかったサッカーが突如目の前に現れたことなど、多数の要因が重なり、単純に興味が湧いたのです。
 そのあと即座に履歴書を送り、いざ見学に。見学時のお話は、前回お話しさせていただいた通りですが、この『スポ育』によって私のブラインドサッカー人生が始まりました。


スポ育とは?

 自分の仕事や、好きなこと、趣味、時には人生について、「あなたにとっての○○を一言で表すと?」といったインタビューをよく目にしますが、みなさんは例えば、今の仕事を一言で表すと?と問われたら、どんな表現をするでしょうか。おそらく人の数ほど表現の仕方も多岐にわたると思います。私なら、『修行』とでも表現するでしょうか(笑)。
 では、「スポ育」を一言で表すと?と問われたら、私はきっと『心の教育』と表現するでしょう。その真意をこれから、スポ育において具体的に行う事や、実際の現場の中で起こったことをもとにご説明させていただきます。

 まずスポ育で提供できる学びとして、私たちは以下の6つを提示しています。

 ?チームワークの大切さ
 ?個性の尊重
 ?コミュニケーションの重要性
 ?チャレンジ精神の醸成
 ?障がい者への理解促進
 ?ボランティア精神の育成

 これらについて、90分間の体験プログラムを通じて学ぶことが可能です、ということです。訪問する学校や学級の先生によって強調したい部分が異なることはもちろんあります。
 具体的には、選手と講師で学校へ伺い、プログラムを提供するのですが、プログラムの流れとしては以下をベースにしています。

  • 自己紹介
     ↓
  • ブラインドサッカーや視覚障がいに関する説明
     ↓
  • 選手のデモンストレーション・注意点の説明等
     ↓
  • ワーク? ブラインド体操
     ↓
  • ワーク? ブラインドウォークorラン
     ↓
  • 休憩
     ↓
  • ワーク? ボールワーク1
     ↓
  • ワーク? ボールワーク2
     ↓
  • 振り返り・終了
ブラインド体操では、選手が普段行っている体操を真似してもらう。アイマスクを着用して見えない状態の人と、それをサポートする見えている状態の人に分かれて、コミュニケーションを取りながら、選手と同じ動きができるようにする。(© JBFA)

ブラインド体操では、選手が普段行っている体操を真似してもらう。アイマスクを着用して見えない状態の人と、それをサポートする見えている状態の人に分かれて、コミュニケーションを取りながら、選手と同じ動きができるようにする。(© JBFA)

 上記の中で大きなポイントは、アイマスクをして目が見えない状態になる人と、その人に対して声がけやサポートする役回りになる人に分れることです。
 例えばブラインド体操では、選手が普段行っている体操を真似してもらうのですが、ペアになった上で、一人はアイマスクを着用して見えない状態、もう一人は見えている状態で行います。見えている人が選手の動きを見ながら、ペアを組む目隠しした人に教えてあげて、同じ動きができるようにするというものです。これ、口で言うのは簡単なのですが、実際にやってみるとなかなか難しいのです。思わず、『こうやって!』など視覚的な情報伝達を行おうとしたり、言葉で伝えようとしても、聞き手の解釈が自分自身の伝えたい内容と異なってしまったりと、すんなりとはいかないケースが発生します。
 ワークを終えるごとに、選手からのフィードバックが行われます。ワークの中で起こったことを振り返ってみたり、参加者よりそのワークをやってみての感想を聞き取ったりしながら、ワークでのポイントやコミュニケーションの取り方のアドバイスが行われます。
 アドバイスの詳細については割愛しますが、『相手の立場にたって伝えてみる』のが非常に重要なこととして、選手からは伝えられます。言い方を変えると、自分本位なコミュニケーションでは相手には伝わらない、という意味になります。相手が今どんな状態や気持ちなのかを少し考えてみたうえで伝えてみる。ちょっと不安そうな人にあれこれ言っても伝わりにくいはず。そうであれば、まずはそばにいるから大丈夫ですよ、と声をかけてみるなど、コミュニケーションの取り方も少し気を配るだけで随分と変わるはずなのです。
 90分のワークを終えると、多くの参加者はコミュニケーションの取り方に劇的な変化が見られます。
 見えている状態でペアを組んだ相手に伝える役を担っているときには、説明が丁寧になったり、言葉のチョイスに工夫がみられるようになったりします。逆に見えていない状態のときにも、ただ黙って説明を聞くだけでなく、自分から情報をキャッチしにいくようになる、などの変化が起きます。
 それぞれのワークの中でのゴールに向けて、見えている人・見えていない人が協力しながら取り組む中で起こってくる変化です。
 ワークを通じて視覚障がい者の疑似的体験を行う、不安を感じる一方で、どういう声掛けをされると安心するか、またわかりやすいかを体感するのです。また、実際にワークを行う中で、視覚障がい者に対する声かけも体験します。
 選手を通じて、ブラインドサッカーや視覚障がい者を身近に感じる機会となり、かつ具体的な体験をすることで、先述した6つの学びが効果的に得られる設計となっているのです。プログラムのベースにあるのは、お互いのことを思いやることの大切さです。そういった点からも、私はスポ育を『心の教育』と表現しています。
 実際に現場で起きた出来事として、とても嬉しい事が過去にありました。少し不登校傾向のあった生徒がいましたが、面白そうということでスポ育に参加し、周りの友達たちと悪戦苦闘しながらワークを行っていました。その過程で心に変化が生じ、体験以降、学校に積極的に通うようになったという報告を担任の先生からいただいたのです。これはとても嬉しい出来事でした。作り話のようですが、本当にあった話です。


スポ育の今後

スポ育体験で子どもたちに話をする筆者(© JBFA)

スポ育体験で子どもたちに話をする筆者(© JBFA)

 2010年から首都圏中心に少しずつ拡大してきているスポ育体験は、現時点で延べ13万人以上が体験しています。最近は関西でも少しずつ展開しており、今年は仙台でも実施をしています。障がいをテーマにした学びは、得てして少々重いものになりがちですが、スポーツの力、ブラインドサッカーの力を生かしながら、より身近に感じながら学ぶことができます。それだけではなく、相手を思いやるという、よりベーシックな気付きや学びを教育現場に届けることができるこのスポ育が、日本中に広がっていってほしいと願っています。
 障がい者スポーツが社会に良い変化を起こす。まずはスポ育がそれを体現していければと思っています。


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