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「竹とあそぶ」バックナンバー

0032020.01.28UP“竹(バンブー)を楽しみ(エンジョイして)”、生きがいづくりに-香川県さぬき市「バンジョイ塾」-

香川県全域から毎週日曜日に、約100人のメンバーが思い思いに活動する

 香川県さぬき市は、四国遍路八十八箇所の“結願(けちがん)のまち”として知られる。その八十七番札所に当たる長尾寺は、琴電長尾線の終着駅である長尾駅から徒歩5分ほどのところに立地する。門前通り沿いに、さらにしばらく進んでいった先にある長尾公民館の向かいに、バンジョイ塾の拠点施設となっているプレハブ小屋が建つ。
 バンジョイ塾は、“竹(バンブー)を楽しむ(エンジョイする)”ことをモットーに活動している、竹細工の達人集団。立ち上げ当時から塾長として牽引してきた故河内一男さんが高齢のため代表事務を次代に任せるようになった数年前から、代表と事務局長を置くようになった。今回お話をお聞きした地元出身の戸田修治さんは、事務局長を経て約2年前から3代目の代表を引き継ぎ、会の運営を担っている。
 「バンジョイ塾は、前身の団体から数えれば30年以上の歴史になります。“むらおこし”をするのに、長尾じゃ何をするかっちゅうて、ふるさと創生の資金を活用して竹細工をされよったのがそもそもの興りで、それが延々と続いとるわけです。私自身はまだ10年目に過ぎませんけど、地元のイベントごとでの打ち合わせなどもあるんで、なるたけ地元のもんがいるやろうということで、引き受けとります。この活動を始められた方らがこれまで大事にしてきたことを、なるだけ続けられるようにと運営しとります」
 バンジョイ塾の活動日は、毎週日曜日。毎年新しい人が加わってきて、今は香川県全域からほぼ100人が塾生として名簿に名を連ねている。県の西端にある観音寺市から来ている人もいるし、小豆島から船と電車を乗り継いで毎週通ってくるメンバーもいる。ちょっと前までは、徳島から山越えして参加してきた人もいた。定年退職後のシルバー世代が主体だから、年を重ねて辞めていく人もいるが、それでも常時60~70名ほどが集まってきている。

バンジョイ塾3代目代表の戸田修治さん。地元・長尾出身、塾に入って10年ほどになる。

バンジョイ塾3代目代表の戸田修治さん。地元・長尾出身、塾に入って10年ほどになる。

長尾町境の道路標識。「八十七番札所 長尾寺」の表示とともに、「ようこそ 竹の町 長尾へ」の文字が書かれている。

長尾町境の道路標識。「八十七番札所 長尾寺」の表示とともに、「ようこそ 竹の町 長尾へ」の文字が書かれている。


長尾公民館内には、バンジョイ塾から寄贈された竹細工作品の数々がガラス棚に飾られている。

長尾公民館内には、バンジョイ塾から寄贈された竹細工作品の数々がガラス棚に飾られている。

バンジョイ塾の拠点施設。日曜日ごとにメンバーが集まってきて、作業をしている。

バンジョイ塾の拠点施設。日曜日ごとにメンバーが集まってきて、作業をしている。


半年間で竹の取り扱いに関する基礎を段階的に学び、習熟していく

 バンジョイ塾では、毎年1月からの半年間、「竹の学校」と呼ぶ竹の技術等を学ぶための一般公募の講座を開講している。例年11月の1か月間を募集期間としていて、年齢等も含めて特に制約・制限はなく誰でも応募ができる。ただし、半年間の開講期間中、毎週日曜日の講座に参加できることが条件になる。かつては毎年30人ほど募集していたが、今はバンジョイ塾メンバーも多くなって作業場が手狭になっているため、10人ほどの募集と人数を絞っている。
 「この活動の目的の一つには、定年になってから入ってこられる70~80歳の人たちの福祉貢献のためということもあります。去年の受講生は、最高齢が78歳で、だいたい55歳から70歳くらいの年齢層でした。若い人もいないわけじゃなくて、38歳の若奥さんも入ってきています。特に年齢制限を設けているわけではありませんし、男性でも女性でも構わんのですけど、割合でいうと女性が3割くらいになっています」
 設立から30年以上が経って、代表も3代目に代替わりして、当初の方針がどれだけ守れているのかわからないと苦笑しつつ、広く応募して来る人たちの生きがいになって、病院へ通う回数が減るようになれば、施設を提供してもらっている市に対するお礼にもなると、戸田さんは話す。

竹筒を組み合わせて作る「ふくろう」も課題の一つ。

竹筒を組み合わせて作る「ふくろう」も課題の一つ。

 毎年1月頭に初回を迎える竹の学校では、まずは近くにある竹やぶに入って、竹の伐り方から教えている。
 「ただ伐るだけじゃなくて、伐った後に竹林から外に出すことも考えたうえで伐るようにと教えています。それから、この竹は1年目・2年目の若い竹やから伐らないで、3年以上経っておる竹を伐りなさい、じゃあそれをどこで見るんやとか、そういうところから始まって、枝の後始末など、一通りの作業について、全部教えていきます」
 枝のいらない部分は、隅の方に場所を決めて、横にして重ねていく。そうすることで朽ちて土に返っていくような処理の仕方をする。竹林の中を通るときに邪魔にならないように、その辺に投げ捨てたりは決してしないし、ときには立ち枯れた竹なども伐って、地主さんが感謝してくれるくらいの手入れをする。そうした配慮がないと、“もう次の年からは来てくれるな”と言われてしまうことにもなる。
 さらに、入門編ということで、小刀をはじめとする工具類の使い方や刃物の研ぎ方についても、作品づくりの中で、段階的に順序立てて教えていく。

らせん状に切り込みを入れた花入れ。

らせん状に切り込みを入れた花入れ。

 例えば、らせん状に切りこみを入れた「花入れ」を作る課題がある(下表に示すように、2019年度は1月27日の課題として実施)。バネのような不思議な構造をしていて、伸びきってちぎれないように中にヒモを通して固定しているもので、完成品を見ただけでは、どうやって作っているのか見当もつかない。
 竹の学校では、製作マニュアルを用意していて、手順通りに作っていくとそれなりの形ができる。竹筒にガイドとなるクラフトテープを斜めに巻いて、ノコギリで切り込みを入れていくわけだが、ノコギリの使い方の習熟によって、らせん状の切り込みの巧拙が如実に表れる。こうした課題を積み重ねていくことで、工具類の使い方を習い、竹の扱いに慣れていって、より高度な技術を要する竹細工にも挑戦できるようになっていく。
 「バンジョイ塾のメンバーの中でも作るもんによって得意な人がおるもんですから、その人らが得意なもんを教えよります。竹で作る昆虫でもカブト・クワガタからトンボや蝶々とそれぞれ得意なものが違うんですよね。編み籠でもヒゴづくりからこうやってするんや言うて教えますし、ここのところはこの竹がいいわと持ってきてあげたりしています。それぞれコツいうんかポイントを押さえて教えているんで、1年目に作るものが一番いい出来になりますわ。ほんで、2年目になって先生から離れて家で作ってみると、どうもうまいこといかんいうて、また塾に来て、先輩塾生に教えてもろうて、だんだんコツをつかんで、うまくなっていくんですね」


 わずか半年の講座とはいえ、毎週日曜日の開講だから、全20数回を集中して学ぶことになる。まったくの素人でも初歩から段階的に技術を学んでいくためのカリキュラムが組まれていて、半年を終える頃には一通りの技術を習ったことになる。バンジョイ塾の技術を伝承していくうえで、竹の学校が大きな役割を担っていると戸田さんは言う。
 半年間のカリキュラムを修了すると、晴れてバンジョイ塾の入塾資格が得られることになる。教わった通りに1度作ってみただけではまだまだ習熟しているとは言えない竹の技術をさらに継続的に学び、研鑽していくための機会を得るわけだが、裏を返せば、バンジョイ塾にとっては、新たな塾生を獲得していくための仕組みとしても機能しているわけだ。

2019年度「竹の学校」のカリキュラム

1月6日入校式~説明
1月13日竹採取~刃物研磨
1月20日ガリガリトンボ
1月27日らせん花入れ
2月3日竹の割り方
2月10日竹ひご作成
2月17日干支
2月24日沢蟹
3月10日カマキリ
3月17日六つ目編み籠
3月24日網代色紙掛け
3月24日風車
3月31日
4月7日
4月14日
4月21日トンボ
4月28日
5月5日
5月12日鈴虫
5月19日カブトムシ
5月26日クワガタ
6月2日ふくろう
6月9日バランストンボ
6月16日自由課題
6月23日自由課題
6月30日修了式

壁に飾られた、竹の掛け軸。

壁に飾られた、竹の掛け軸。

竹の根っこの部分の表情を生かした花器。

竹の根っこの部分の表情を生かした花器。


作業中や前後のおしゃべりはもちろん、作品づくりのアイデアなどを共有できることがモチベーションに

 香川県は竹の多い地域と言えるが、都市部の住宅街に暮らしていると、日常的に竹を手に入れられる環境にはない。塾生の7割ほどは団地に住んでいるような人たちだから、塾に参加することで材料が入手できることも、継続して参加するモチベーションになっている。
 塾生同士のつながりや紹介で材料を融通しあったりもするため、塾の活動を通じて、自分の世界がどんどん広がっていく。

 材料の調達は、長尾周辺にふんだんにある竹林から必要に応じて伐ってくる。もともと村興しのための竹林が、八十七番札所「長尾寺」から八十八番札所「大窪寺」へと向かう山深い道のまわりに繁茂しているから、伐る場所はいくらでもある。地主さんたちにとっても十分な手入れができていないから、バンジョイ塾のメンバーが伐りに行くことで少しでも整備されれば、むしろ感謝されることにもなる。とはいえ、竹細工で使う量はたかがしれているから、それだけで十分な整備ができるわけではない。市でも、最近はシルバー人材の活用などによって伐採作業に取り組むようになって、谷筋の見通しがよくなってきた。

 材料がもらえること以上に、作業中や前後におしゃべりを楽しんだりして交流できることが、活動への参加動機の大きな理由になっている。
 竹の学校への入学が塾生になる登竜門だから、入校のタイミングで、同期のつながりを大事にしろと話していると、戸田さんは言う。
 「毎週の定例活動では、どこに座って作業しておってもええですから、いっしょに居る仲間がのうなってもうたら来にくくなるんでね。やっぱり同期だったら、事あるごとに、“今週・来週と法事があるんであんじょう頼むで”とか、しばらく来ていないメンバーに“どないしよった”っていう話もできるでしょ。名簿を全員に配ることはしとらんですけど、同期の間ではちゃんと携帯電話番号を交換しておいて、辞める時までは大事にしておきなさいよと、入った時点で言うとります」

 もう一つ大きいのが、作品づくりのアイデアや情報を共有できること。
 「干支の竹細工は毎年作る人がおりますね。前の年、早い人だと、正月が明けてもう2月くらいになると、“来年の干支でこんなん作ってみた”と言うて、試作品を持ってくるんですわ。そしたらみんなでああだこうだ言い合って、夏くらいまでの間、試作を繰り返していって、どんどん変形していきよります。アイデアがない人はそれを見て真似をすればいいんですよ。まあ、干支を作ってプレゼントなんかすると、その翌年もほしい言われますから、私はなるたけそういうのはせんようにしとりますけどね」
 戸田さんがポケットから取り出した鍵には、キーホルダーとして竹細工がいくつもぶら下がっている。実際に音の鳴る笛もあれば、網目模様が複雑なピーナッツの根付細工のようなものもある。将棋の駒も竹で作ったもので、ワンセット揃えて作る人もいるという。
 キーホルダーではないが、竹製の楊枝入れを作った人もいる。竹を板状に貼り合わせて箱にして、中の楊枝も一本一本削り出して作った。スーパーや百円均一ショップに行けばいくらでも売っているだろうと笑われるが、本人が楽しんで作っていることに文句は言えない。
 とにかく、なんでもおもしろがって作る人がいて、真似したり競い合ったりしながら、メンバー同士で刺激し合うことで、活動が盛り上がっていく。戸田さんも時間が取れれば、翼を広げて飛びたとうとする鷹の大きな置物を作りたいという。竹細工の大きな伊勢エビなどはすでに作っていて、違ったものにも挑戦していきたい。先生になる先達はいくらでもいる。ただ、代表職をしているとイベントの段取りや役所との連絡・調整などもあって、なかなか自分の作品を作る時間が取れないのが悩みだ。

戸田さんのカギには、竹で作ったキーホルダーがいくつもぶら下がっている。

戸田さんのカギには、竹で作ったキーホルダーがいくつもぶら下がっている。

2020年の干支に当たる「子(ネズミ)」の竹細工。

2020年の干支に当たる「子(ネズミ)」の竹細工。


地域のイベントなどを通じて、竹や竹細工の魅力について広く発信

 毎週日曜日の定例活動日に加えて、展示会への出品や地域のイベントなどへの協力も活動の柱として大事にしている。毎年恒例のイベントとしては、ともに県立鶴亀公園を会場に開催される「長尾しょうぶまつり」(6月)や「かぐや姫カーニバル長尾」(10月)などがあって、竹細工のブースを出展して、簡単な竹細工体験のワークショップなども実施している。
 民間企業が運営する住宅展示場の中で月1回実施している竹細工講座でもメンバーが指導役を担っている。1回で完成するものもあれば、月をまたいで数回にわたって完成させる複雑なものを作ることもある。
 このほか行政や民間団体が主催する不定期・単発のイベントの中で指導役を頼まれてメンバーを派遣することもある。

 さぬき市内の小学校での竹細工の出前講座も、毎年3年生を対象に、簡単な工作の指導をしている。大人相手に教えるときは刃物も使わせているが、小学生の場合は安全対策上の制約から、小刀さえも持たせることができない。刃物を使う代わりに、竹トンボの羽をろうそくの炎であぶって曲げたり、用意しておいた部品で手のひらサイズの竹のイヌを組み立てたりと、指導方法にも工夫が必要となる。
 さぬき市では、友好都市提携している北海道剣淵町の小学校と、5・6年生が1年おきに相互に行き来する交流事業を実施している。剣淵小学校の児童がさぬき市を訪れるときには、バンジョイ塾のメンバーが指導役を担って、竹細工を体験してもらっている。
 竹細工体験だけでなく、夏場には流しそうめんもしている。地主さんに竹を伐らせてくれというと、こんな時期に伐るアホがおるか!と叱られるが、そうめんを流す竹の樋として使うほか、箸とカップを作らせていて、子どもたちには毎回人気の行事になっている。

 塾の活動を通じて、メンバーそれぞれが竹に向き合う時間を楽しみ、また竹を介した仲間たちとの交流を楽しみ、さらにイベントや出前教室では来場者や子どもたちに竹の楽しさを伝授する。まさに、“竹(バンブー)を楽しむ(エンジョイする)”、バンジョイ塾の活動だ。

塾舎内の壁には、ホワイトボードとコルクボードが設置され、行事予定などの告知等の書き込みやイベントのチラシなどが掲示され、メンバー同士の情報共有等に活用している。

塾舎内の壁には、ホワイトボードとコルクボードが設置され、行事予定などの告知等の書き込みやイベントのチラシなどが掲示され、メンバー同士の情報共有等に活用している。

塾舎の裏に設置されている竹置き場。取材に訪れた日は、ちょうどこれから竹を伐る季節に入るとのことで、ほぼ空の状態だった。

塾舎の裏に設置されている竹置き場。取材に訪れた日は、ちょうどこれから竹を伐る季節に入るとのことで、ほぼ空の状態だった。


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