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「フードバンクが“食”をつなぐ」バックナンバー

0012016.08.12UPフードバンクは日本に根付くか-フードセーフティネットの未発達な社会-

“健康的な空腹感”が戻り、“心の栄養”にも

緊急的に食料支援が必要な方が、食べ物を受け取れる場ともなっています(曜日指定あり)【Photo by Natsuki Yasuda / studio AFTERMODE】
緊急的に食料支援が必要な方が、食べ物を受け取れる場ともなっています(曜日指定あり)【Photo by Natsuki Yasuda / studio AFTERMODE】

 「(パントリーで食品の)ピックアップをさせていただきました。伺うまでは気が重かったのですが、スタッフの方の温かな対応に救われます。受け取ったあと、子どもたちにお腹いっぱい食べさせてあげられると思うと、往路の暗さもどこへやら、嬉しくなりました。嬉しくなったら、自分がまだ食事をしていないのを思い出して、健康的な空腹感が戻りました。帰宅すると中学生の娘がパンを見て、ニコニコ…。『これ好きー!』とご機嫌もいっそう麗しくなって、薬局へのお使いにも快く行ってくれました。お腹をすかせた中学生の息子が帰ってきたらウィンナーをいれたホットドッグのおやつを出してあげられます。つい切り詰めすぎて、カリカリしていた自分にも気づきました。心にも栄養もいただき、元気の素を受け取りました!」
 上記は、先日私たちセカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)の元へ食品を取りに来られた方から頂いたメッセージの一部を抜粋したものです。私たちは、フードバンクという取り組みをしている団体です。フードバンクとは賞味期限が近づいて店頭に出せなくなった食品や、善意の寄付として頂いた食品を、施設などを通じて必要な人の元に届ける活動です。その定義は日本では定まっていませんが、共通するものとしては「食品を集めて、ニーズに合わせて配る」取り組みで、集めた食品は、炊き出しのように直接個人に渡す団体もあります。
 上記のメセージに記載がある“パントリー”とは2HJの行う個人への直接的な食料配布のことです。2016年現在、全国に約40団体のフードバンク団体があると言われていますが、2HJは2002年に日本で初めて法人化したフードバンク団体で、現在は浅草橋を拠点に年間約2,000トン前後の食品を取り扱い、活動しています。

食べることに困るはずはないにもかかわらず、毎日のように“食べるものがない”という声が届く

毎週約100名のボランティアの方にご協力いただき、食料を必要とされているご家庭への食料パッケージ作りや、炊き出し活動などを行っています。【Photo by Natsuki Yasuda / studio AFTERMODE】
毎週約100名のボランティアの方にご協力いただき、食料を必要とされているご家庭への食料パッケージ作りや、炊き出し活動などを行っています。【Photo by Natsuki Yasuda / studio AFTERMODE】

 私たちは、すべての人に十分な食料が行き渡る事を目標に取り組んでおり、日本はフードセーフティネットが未発達な社会であると考えています。ここで言う“フードセーフティネット”とは、緊急時すぐに食品を確保するための様々な支援の体制や活動の事を指します。
 あなたが今とても空腹で、お金も頼れる人もなく、冷蔵庫が空になってしまった時、どこに行けば食べ物を手に入れることができるでしょうか? 交番でも市役所でも食べ物は通常もらえません。東京でも主に路上生活者を対象とした炊き出し団体などがありますが、数十カ所のみです。ところが、ニューヨークには1,000カ所以上、香港にも500カ所以上もあるそうです。
 しかし街を歩けば、コンビニやレストラン、スーパーマーケットなどに食料が溢れています。お金があればそれらの食料にいつでもアクセスできるため、災害時などを除けば食べるのに困る事は、今の日本社会ではほぼありません。また経済的に困窮していても、日本国憲法25条の生存権などによって健康で最低限度の生活を営む権利が保障されている為、生活保護などの福祉制度を活用すれば、本来は食べる事に困るという絶対的貧困状態に近い状況には誰もならないはずです。
 それでも、私たちのところには、毎日のように今日食べるものがない、もう数日食べていないという声が届きます。理由はさまざまで、突然家族が病気になって収入が途絶え出費がかさんでしまった、生活保護を受ける予定だが手続きをしている間の食料がない、難民申請をしたが通らず仮放免になった、などです。社会福祉の制度を知らない、情報の貧困が原因の場合もあり、そういった方々に相談先をアドバイスするのも私たちの役割の一つです。

フードセーフティネットを築くために必要な食料は十分にある

企業などから寄贈頂いた食品は、児童養護施設やDV被害者のシェルターなど100を超える施設・団体にお渡ししています。【Photo by Natsuki Yasuda / studio AFTERMODE】
企業などから寄贈頂いた食品は、児童養護施設やDV被害者のシェルターなど100を超える施設・団体にお渡ししています。【Photo by Natsuki Yasuda / studio AFTERMODE】

 私たちがこのような活動をする背景には「フードセーフティネットを築くために必要な食品は充分にある」という仮定があります。日本では全世界の国際食料援助量の倍近い年間632万トンのいわゆる食品ロスが発生しています。まだ食べられるにも関わらず破棄される食品のことです。食品ロス問題の解決の一つの手段としても取り上げられる事の多いフードバンクですが、活動を続ければ続けるほど、問題の複雑さに翻弄されます。

 本連載では、日本社会が抱える食の複雑な問題を、フードバンク活動によるフードセーフティネットの構築という視点から少しだけ紐解いてみたいと思います。

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